同僚が1人辞め、2人辞め、気づけば半年で3人目の退職。送別会のたびに「次は自分かもしれない」と思うのに、翌朝にはまたいつも通り出社している——退職面談1000件を担当してきた中で、こうした「残された側」から最も多く聞いた言葉は「なんで自分だけ動けないんだろう」でした。
マイナビ転職動向調査2026年版によると、正社員の転職率は7.6%と過去最高を記録しています。さらにJob総研2026年調査では、同僚の退職後に自身の退職意欲が「上がる」と答えた人は77.5%。つまり、周りが辞めれば自分も揺れるのは当然の反応です。にもかかわらず動けないのは、あなたの決断力の問題ではありません。
今回は、退職面談で本当に言われるのは何だったのかを振り返りながら、連鎖退職の中で残された側が静かに壊れる3つの構造パターンを整理します。
パターン1:同僚の退職が「自分のキャリア不安」を可視化するが、言語化できない
連鎖退職が起きたとき、残された人の頭の中で最初に動くのは「あの人は決断できたのに、自分はできない」という比較です。
退職面談で話を聞くと、辞めていった同僚が特に優秀だったわけではないケースがほとんどです。ただ、「辞める」という行動を取れたこと自体が、残された側には眩しく映る。そして、自分も漠然と不満を抱えていたことに気づくのですが、その不満を言葉にできない。
採用側の論理で言うと、転職で成功する人と失敗する人の差は「取りに行くもの」が言語化できているかどうかです。しかし、連鎖退職の渦中にいる人は「逃げたい気持ち」だけが膨らみ、「取りに行くもの」の言語化に一度も取り組んでいない状態が続きます。
この「言語化できない焦り」は、時間が経つほど自責に変わります。「動けない自分はダメだ」「決断力がない」——しかし実際には、不満を構造的に整理する時間も機会も与えられていないだけなのです。
パターン2:抜けた穴の業務が降ってきて「考える時間」が物理的に消える
連鎖退職で最も深刻なのは、辞めた人の業務が残された人に集中することです。厚労省令和6年労働安全衛生調査では、強いストレスの要因1位は「仕事の量」(43.2%)。連鎖退職が起きた部署では、この数字がさらに跳ね上がります。
私が人事部で見てきた構造はこうです。1人目が辞めると業務が1.2倍になる。2人目で1.5倍。3人目で、もはや通常業務を回すだけで限界になる。こうなると、転職サイトを開く気力すら残りません。
退職面談で「なぜもっと早く相談しなかったのか」と聞くと、このパターンの人は必ずこう答えます。「忙しすぎて、自分が限界だと気づく余裕もなかった」と。
朝6時に起きてヨガで頭を整理する時間を持つ私でさえ、現役時代に部署で連鎖退職が起きたときは、朝の30分が業務の前倒しに消えました。回復の時間が業務に食われる構造は、個人の努力では止められません。
パターン3:「残っている自分」を正当化するために不満を抑え込む
心理学でいう認知的不協和がここで働きます。「自分は辞めていない」という事実と、「本当は辞めたい」という感情の矛盾を解消するために、人は無意識に「ここに残る理由がある」と自己説得を始めます。
「住宅ローンがあるから」「家族がいるから」「年齢的に厳しいから」——これらは理由ではなく、動かない自分を守るための後付けの正当化であることが少なくありません。
退職面談1000件のデータで最も印象的だったのは、連鎖退職の中で最後まで残った人ほど、退職時の消耗が深刻だったという事実です。不満を抑え込み続けた結果、辞めると決めたときにはすでにバーンアウト状態。転職活動でも「取りに行くもの」が言語化できず、面接で苦戦するケースが多発します。
人事部の評価会議では、連鎖退職の中で残っている社員を「安定している」「忠誠心がある」と評価しがちです。しかし、退職面談で本当に言われるのは、「残っていたのは忠誠心じゃなく、動く気力がなかっただけです」という言葉でした。
連鎖退職の中で自分を守る3つの自己点検ステップ
ステップ1:「辞めたい理由」と「残っている理由」を10個ずつ書き出す
紙でもスマホのメモでも構いません。「辞めたい理由」と「残っている理由」をそれぞれ10個書き出してください。ポイントは、残っている理由の中に「消去法の理由」(〜がないから動けない)と「積極的な理由」(〜があるからここにいる)がいくつあるかを数えることです。消去法が8個以上なら、それは「残っている」のではなく「動けていない」状態です。
ステップ2:3ヶ月前の自分と今の自分を比較する
退職面談で私が使っていた問いを応用します。「3ヶ月前の自分は、今の自分と同じ状態だったか?」。業務量、睡眠の質、週末の過ごし方、人と話す頻度。どれか1つでも明確に悪化しているなら、連鎖退職による消耗が進行しています。
ステップ3:1人に「最近しんどい」と言語化する
社内の誰かでなくて構いません。家族、友人、キャリアの相談相手。「最近、周りが辞めていってしんどい」と声に出すことが第一歩です。退職面談1000件で最も多い後悔は「もっと早く誰かに話せばよかった」。孤立した不満は、連鎖退職という外部圧力によって爆発のタイミングが予測できなくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 周りが辞めていく中で残るのは間違った判断ですか?
残ること自体は間違いではありません。問題は「残ると決めた」のか「動けないから残っている」のかの違いです。前者は積極的な選択、後者は消耗の入り口です。自分がどちらかを判断するには、ステップ1の書き出しが有効です。
Q2. 連鎖退職が起きている部署にいると転職で不利になりますか?
採用側の論理で言うと、連鎖退職自体はマイナス評価になりません。むしろ「人が抜けた中で業務を回した経験」は評価される場合があります。ただし、消耗しきった状態で面接に臨むと「この人は疲弊しているだけで、うちでも同じことが起きるのでは」と判断されるリスクがあります。
Q3. 上司に「人が足りない」と言っても改善されません。どうすればいいですか?
感情ではなく事実で伝えることが重要です。「しんどい」ではなく「Aさんの退職後、週の残業時間が◯時間増えた」「◯◯の業務が引き継ぎなしで止まっている」など、数字と業務名を3点セットで記録して伝えてください。人事部は感情では動けませんが、数字と事実があれば稟議を上げる根拠になります。
Q4. 同僚の退職を見て焦りで転職活動を始めるのは危険ですか?
焦り自体は正常な反応ですが、焦りをそのまま行動に変換すると「逃げたいもの」だけで動くことになり、転職後の後悔率が上がります。まずはステップ1で「辞めたい理由」と「取りに行くもの」を分離してから動いても遅くはありません。
参考文献
- マイナビ「転職動向調査2026年版(2025年実績)」——転職率7.6%(過去最高)、転職者の52.6%がキャリア停滞感を回答
- Job総研「2026年 退職に関する意識調査」——同僚退職後に退職意欲が上がる77.5%、退職への抵抗感が下がっている83.3%
- 厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」——強いストレスを感じる労働者68.3%、ストレス要因1位「仕事の量」43.2%
- パーソル総合研究所「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」(2024年)——20代メンタル不調による退職率35.9%





