「1社目で10年以上頑張ってきたのに、転職活動を始めたら5社連続で落ちた」——初めての転職活動でこの壁にぶつかる人は、実は少なくない。マイナビ転職動向調査2026年版によれば転職率は7.6%と過去最高を更新し、40代・50代のミドル層の転職も増加し続けている。だが、転職率の上昇は「初めて転職市場に出る人」の増加も意味する。

エン・ジャパンの調査では、転職活動に不安を抱える人は9割に達し、20代の半数以上が「面接で上手くアピールできるか」を最も不安視している。採用側の論理で言うと、初めての転職者が面接で落ちる原因はスキル不足ではない。10年以上1社で働いてきた人には、十分な実務経験がある。足りないのは「中途採用の面接がどういうゲームなのか」の理解だ。

私は上場企業の人事部で20年、採用責任者として1500名以上を選考し、退職面談を1000件以上担当してきた。その中で「初めての転職」で連敗する人には、3つの構造的なミスが共通していた。

構造1:新卒面接の成功体験で中途面接に臨んでいる

初めて転職する人の多くは、唯一の面接経験が10年以上前の新卒採用だ。そのときの成功体験——「熱意を見せた」「ガクチカを語った」「志望企業への愛を伝えた」——をそのまま中途面接に持ち込む。

だが中途採用の面接は、新卒面接とはまったく別のゲームだ。人事部の評価会議では、新卒は「ポテンシャル(伸びしろ)」で選ぶが、中途は「再現性(うちでも同じ成果を出せるか)」で選ぶ。中途採用状況調査2026年版(マイナビ)では、企業の91.1%が中途採用に積極的である一方、要件未達の人材を「採用しない」企業が62.1%に上昇している。ポテンシャルではなく、事業貢献の実績で判断する企業が明確に増えている。

採用面接1500名の経験から言えば、初めての転職者が最もやりがちなのは「御社の理念に共感しました」という入り口だ。新卒面接ではこれが加点になるが、中途面接では「で、あなたは具体的に何ができるんですか」という次の問いに答えられなければ、30分で見送りが決まる。

構造2:退職理由と志望動機が一本の線でつながっていない

初めて転職する人は、退職理由と志望動機を別々の質問として準備する。だが面接官はこの2つを「一本の線」として聞いている。「なぜ辞めるのか」→「だから何を取りに行くのか」→「なぜそれがうちで実現できるのか」。この流れが一貫している候補者と、バラバラな候補者では、評価会議での扱われ方がまったく違う。

ワークポート2026年春調査で離職理由1位は「スキル停滞」(36.8%)だ。「成長できないから辞めたい」は退職理由として正直だが、面接でそのまま話すと「うちに来ても同じことを言うのでは」と映る。必要なのは「スキル停滞」の裏返しとして「取りに行くもの」を言語化し、応募先の事業課題に接続する作業だ。

退職面談で本当に言われるのは「辞める理由は100個あったのに、次に何を取りに行くか考えていなかった」という後悔だ。退職面談1000件のデータでは、初めての転職で面接に落ち続けた人の8割以上が「逃げたい理由」は即答できるが「取りに行くもの」は言葉にできなかった。

構造3:中途面接が「相対評価」であることを知らない

新卒面接には「一定の基準を超えれば受かる」という感覚がある。だが中途面接は、同じポジションに応募している他の候補者との相対評価で動いている。「ちゃんと答えられた」は絶対評価では合格でも、相対評価では加点が足りずに落ちる。

厚労省令和6年雇用動向調査によれば、転職入職者のうち賃金が増加した人は40.5%で前年比3.3ポイント上昇しているが、減少した人も29.4%いる。市場が活況でも、相対評価で「選ばれる理由」を持たない候補者は条件面でも不利になる。

朝6時に起きてヨガをしてから考え事をする習慣が20年続いているが、評価会議のことを思い返すと、初めての転職者は「減点がなかった」ことで安心する傾向がある。だが評価会議で合否を分けるのは「この人を推す理由が1つあるか」であり、減点ゼロと合格はまったくの別物だ。同ポジションの他候補者が1つでも明確な加点を持っていれば、減点ゼロの候補者は見送りになる。

初めての転職で面接を突破する3つの対策

対策1:成果を「事業貢献×数字」で書き換える

10年分の実績を、「何を(What)」「どのくらい(How much)」「事業にどう影響したか(So what)」の3要素で整理する。「営業部で顧客対応をしていた」ではなく「担当顧客50社のうち離脱率を年間8%から3%に改善し、ARR換算で約1,200万円の維持に貢献した」。1社に10年いた人ほど、この翻訳作業に使える材料は豊富にある。新卒のときにはなかった「実績」という最大の武器を使わない手はない。

対策2:退職理由の裏返しで「取りに行くもの」を言語化する

退職理由が「成長できない」なら、取りに行くものは「どんな成長か」を具体化する。「マネジメント経験を積みたい」「事業企画に関わりたい」「技術領域を広げたい」。その上で、応募先の事業課題を調べ、「自分の経験がその課題にどう接続するか」を一本の線でつなぐ。退職理由→取りに行くもの→応募先の事業課題。この3点が一直線になっていれば、面接官は評価会議で推す材料を持てる。

対策3:「選ばれる理由」を1つ用意する

相対評価で選ばれるには、「この人でなければならない理由」が1つあればいい。それは業界知識でも、特定の業務プロセスの経験でも、数字で示せる改善実績でもいい。面接の最後に「入社後3ヶ月で自分が何をしているか」を語れる人は、相対評価で頭一つ抜ける。面接官1500名の選考経験から言えば、入社後の具体的イメージを語れる人の通過率は、語れない人の2倍以上だ。

FAQ

Q. 1社に長くいたこと自体は面接で不利になりますか?

なりません。採用側の論理で言うと、1社で長く成果を出し続けた人は「定着してくれる可能性が高い」というプラス評価を受けます。問題は在籍年数ではなく、その期間で得た実績を市場言語に翻訳できるかどうかです。

Q. 新卒のときと同じように企業研究すればいいですか?

新卒の企業研究は「企業の魅力を理解する」ことが中心ですが、中途では「企業の事業課題を特定する」ことが求められます。IR資料、中期経営計画、競合との比較——自分の経験が接続できる課題を見つけることが企業研究の目的です。

Q. 転職エージェントに初めての転職だと伝えるべきですか?

伝えるべきです。初めての転職であることは恥ずかしいことではなく、エージェント側にとっては「面接対策のサポートが必要」というシグナルです。面接のフィードバックをもらえるエージェントを選ぶことで、構造的なミスを早期に修正できます。

Q. 何社受ければ内定が出ますか?

人事部の評価会議では合否は応募数ではなく準備の質で決まります。5社に的確な準備をして臨むほうが、20社に同じ経歴書で応募するよりも通過率は高くなります。初めての転職では、まず3社で面接を経験して自分のパターンを把握し、4社目以降で修正をかけるのが現実的なアプローチです。

参考文献

  • マイナビ「転職動向調査2026年版(2025年実績)」——転職率7.6%(過去最高)、40代・50代の転職が継続増加
  • マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」——91.1%が中途採用に積極的、要件未達は採用しない企業62.1%
  • ワークポート「2026年春・意識調査」——離職理由1位「スキル停滞」36.8%
  • エン・ジャパン「転職活動の不安実態調査」——転職活動に不安を抱える人は9割、20代の半数以上が面接アピールに不安
  • 厚生労働省「令和6年雇用動向調査」——転職入職者のうち賃金増加40.5%、減少29.4%