退職金の額面を見て「思ったより多い」と喜んだのも束の間、実際の振込額を見て「あれ、こんなに引かれるの?」と焦る人は少なくない。
僕自身、7年勤めた会社を辞めて独立する際、退職届を出す前に退職金の手取りを計算した。月単価のレートで言うと、額面と手取りの差は「知っているか知らないか」だけで数万円〜数十万円変わる。特に退職所得の受給に関する申告書を出さないと、額面の20.42%が問答無用で源泉徴収される。退職金300万円なら約61万円が消える計算だ。
この記事では、退職金の税金計算を3ステップに分解し、勤続年数別の手取り早見表と、2026年から変わったiDeCoの10年ルールまでを整理する。
退職金の税金、なぜ「優遇」されているのか
退職金は給与所得や事業所得と異なり、退職所得として分離課税される。長年の勤務に対する報奨的性質を持つため、以下の3つの優遇措置がある。
- 退職所得控除:勤続年数に応じた大きな控除額が適用される
- 1/2課税:控除後の金額をさらに半分にして課税所得を計算する
- 分離課税:他の所得と合算されないため、累進税率の影響を受けにくい
この3つの仕組みにより、退職金は給与と比べて圧倒的に税負担が軽い。ただし、計算の仕組みを知らないと「本来払わなくていい税金」を払ってしまうケースがある。
3ステップで計算する退職金の手取り
ステップ1:退職所得控除額を算出する
退職所得控除額は勤続年数で決まる。1年未満の端数は切り上げて1年として計算する。
| 勤続年数 | 退職所得控除額の計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
たとえば僕の場合、勤続7年だったので控除額は40万円 × 7年 = 280万円。退職届を出す前に人事に退職金の概算額を確認し、この計算を10分で済ませた。
ステップ2:課税退職所得を計算する
課税退職所得の計算式は以下の通り。
課税退職所得 =(退職金の額面 − 退職所得控除額)× 1/2
1,000円未満の端数は切り捨てる。退職金が控除額以下なら課税退職所得はゼロ、つまり税金ゼロで全額手取りになる。
ステップ3:所得税・住民税を算出する
課税退職所得に対して、所得税の速算表を適用する。
| 課税退職所得 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
算出された所得税額に復興特別所得税(2.1%)を加算する。住民税は課税退職所得の一律10%(都道府県民税4% + 市区町村民税6%)。
勤続年数別・退職金額別の手取り早見表
以下は代表的なパターンの手取り額を計算したものだ。副業の継続率は数字で見ると判断しやすいのと同じで、退職金も数字で把握すると意思決定の精度が変わる。
| 勤続年数 | 退職金額面 | 退職所得控除 | 課税退職所得 | 所得税+復興税 | 住民税 | 手取り額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5年 | 200万円 | 200万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 200万円 |
| 7年 | 300万円 | 280万円 | 10万円 | 5,105円 | 1万円 | 約284.9万円 |
| 10年 | 500万円 | 400万円 | 50万円 | 25,525円 | 5万円 | 約492.4万円 |
| 15年 | 800万円 | 600万円 | 100万円 | 51,050円 | 10万円 | 約784.9万円 |
| 20年 | 1,000万円 | 800万円 | 100万円 | 51,050円 | 10万円 | 約984.9万円 |
| 25年 | 1,500万円 | 1,150万円 | 175万円 | 89,338円 | 17.5万円 | 約1,473.6万円 |
| 30年 | 2,000万円 | 1,500万円 | 250万円 | 155,925円 | 25万円 | 約1,934.4万円 |
勤続年数が20年を超えると控除額の増加ペースが年40万円→年70万円に跳ね上がる。この構造を知ると、退職時期の判断が変わる場合がある。
「退職所得の受給に関する申告書」を出さないと20.42%が天引きされる
退職金を受け取る際、会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないと、退職金の額面全体に対して20.42%(所得税20% + 復興特別所得税0.42%)が源泉徴収される。
たとえば退職金500万円・勤続10年のケースでは、申告書を出せば税金は約7.6万円で済む。出さなければ約102万円が天引きされる。差額は約94万円。確定申告で取り戻せるとはいえ、還付まで数ヶ月かかる。独立直後のキャッシュフローを考えると、この数ヶ月の資金拘束は致命的になりかねない。
僕は退職届を出す前に人事に「退職所得の受給に関する申告書はいつ提出すればいいですか」と確認し、退職日当日に提出した。この10分の確認が、独立直後の資金計画を守った。
2026年から変わった「iDeCo 10年ルール」の影響
2026年1月1日以降、退職金の税制で大きな変更があった。
従来は、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DCの一時金を受け取ってから5年空ければ、勤務先の退職金でも退職所得控除をフルに使えた(いわゆる「5年ルール」)。これが「10年ルール」に延長された。
何が変わったのか
- 改正前:iDeCo一時金を受け取ってから5年超経過後に退職金を受け取れば、それぞれ独立した退職所得控除を適用できた
- 改正後:iDeCo一時金の受け取りから10年超空けないと、退職金の退職所得控除額から重複期間分が差し引かれる
影響を受ける人
iDeCoに加入しているフリーランスや、企業型DCのある会社から退職して独立する人は要注意だ。独立の損益分岐は退職金の手取りも含めて計算すべきで、iDeCoの受け取り時期を10年ルールに合わせて設計する必要がある。
なお、退職金を先に受け取り、後からiDeCoを受け取る場合は従来通り「19年ルール」(退職金受取から19年超経過後にiDeCo一時金を受け取れば控除をフル適用)が維持されている。受け取り順序の設計が手取りを左右する。
退職年の確定申告で還付を取り戻す
年の途中で退職すると年末調整が行われないため、源泉徴収の過払いが発生する。僕自身、7年勤めた会社を年の途中で退職した年、確定申告で還付を受けた。退職年は年収が想定より低くなるため、各種控除の効果が相対的に大きくなる。
退職年の確定申告で忘れがちなポイントは以下の3つ。
- 社会保険料控除:退職後に自分で支払った任意継続保険料・国民年金保険料は全額控除対象
- 小規模企業共済等掛金控除:独立後に加入した小規模企業共済やiDeCoの掛金も控除対象
- ふるさと納税:ワンストップ特例は確定申告すると無効になるため、寄附金受領証明書を全件保管し申告書に記載が必須
退職届を出す前に確認すべき3つのこと
退職金の手取りを最大化するために、退職届を出す前にやるべきことを整理する。
- 人事に退職金の概算額を確認する:退職金規程の計算式と概算額を聞く。企業型DCがある場合は資産額・運営管理機関名・加入者番号の3点も確認
- 退職所得控除額を計算する:勤続年数×40万円(20年超は800万円+70万円×超過年数)で控除額を算出。退職金が控除額以下なら税金ゼロ
- 退職所得の受給に関する申告書の提出タイミングを確認する:提出しないと20.42%が源泉徴収される。退職日までに人事に確認
この3つは合計10分で終わる。独立の損益分岐は退職金の手取りを正確に織り込まないと計算が狂う。月末10分のExcelチェックに退職前限定で「退職金手取り計算」を1回追加するだけで、独立1年目のキャッシュフロー計画の精度が根本的に変わる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 退職金が退職所得控除額を下回る場合、確定申告は必要?
A. 退職金だけなら不要。ただし年の途中退職の場合、給与所得の源泉徴収過払いを取り戻すために確定申告することで還付を受けられるケースが多い。退職年の確定申告はe-Taxで1〜2時間の作業で数万円〜10万円超の還付が見込める。
Q2. 勤続年数に端数がある場合はどう計算する?
A. 1年未満の端数は切り上げて1年として計算する。たとえば勤続6年8ヶ月なら7年として計算するため、控除額は40万円×7年=280万円になる。1日でも多ければ切り上げられるので、退職日の設定で勤続年数が1年変わるケースに注意。
Q3. 退職金を一時金と年金の併用で受け取る場合、どちらが得?
A. 一時金は退職所得控除+1/2課税の優遇があるため税負担が軽い。年金形式は公的年金等控除が適用されるが、雑所得として他の年金収入と合算され、さらに国民健康保険料の算定基礎にも含まれる。手取りを最大化するなら、退職所得控除の範囲内で一時金として受け取り、超過分を年金にする併用型が有利なケースが多い。
Q4. 2026年のiDeCo 10年ルールは、すでにiDeCoを受け取った人にも遡及適用される?
A. 2026年1月1日以降に受け取る退職金に適用される。2025年12月31日以前にiDeCo一時金を受け取っていても、退職金の受け取りが2026年1月1日以降なら10年ルールが適用される点に注意。





