「35歳を超えたら転職は難しい」という言葉を、相談の場でよく聞く。採用面接を1,500名以上担当し、評価会議に20年以上出席してきた立場から、この問いに正直に答えることにする。
結論から言えば、35歳転職限界説はデータ上では崩れている。しかし、35歳以上でも落ち続ける人がいる。この矛盾の中に、本質的な問いが隠れている。
35歳転職限界説が崩れた本当の理由
2026年のデータを見れば、状況の変化は明らかだ。エン株式会社の調査では、転職コンサルタントの81%が「35歳以上の求人が増加している」と回答している。パーソルキャリアによれば、ミドル・シニア層の転職者数は10年で約6倍に拡大した。マイナビの中途採用状況調査2026年版では、中途採用比率が初めて50%を超え(50.3%)、即戦力採用が日本企業の標準になりつつある。
需給構造から見れば必然の流れだ。採用側の論理で言うと、若手人材の絶対数が減少する中で、組織を即戦力で動かすにはミドル層の採用を増やすしかない。「35歳以上は採らない」という方針を維持する余裕は、多くの企業にはもうない。
ではなぜ、落ち続ける人がいるのか。
採用面接1,500名で見た「落ちる人」に共通する3つの構造
私が担当してきた採用面接の記録を振り返ると、35歳以上で複数社の選考に落ち続けるケースには、共通した3つの構造が見えてくる。
構造1:経験年数を実績として語ってしまう
「営業を12年やってきました」「プロジェクトマネジメントを10年以上担当しています」——この種の語り方は、採用担当者にとってほとんど情報を持っていない。
採用側が30代後半の候補者に期待するのは、年数の蓄積ではなく解決の再現性だ。「その経験で、どんな問題をどう解決したか」「同じ構造の課題が出たとき、次はどう対応するか」——ここに答えられない候補者は、どれだけ年数が長くても評価が上がらない。
人事部の評価会議では、「経験年数は積んでいるが何ができるか見えない」という講評が、落選理由として頻繁に登場する。これは年齢の問題ではなく、語り方の問題だ。
構造2:前職の実績を羅列する
前職で達成した売上目標120%、チームを20名にスケールした、新規事業の立ち上げに参画した——これらが「実績の羅列」になってしまうケースがある。
問題は、その実績が「あなた個人の力によるものか」「その会社・その環境だから出せた数字か」が、採用担当者に伝わらないことだ。優秀な後輩がいた、市場が追い風だった、プロダクトがすでに確立されていた——そういった環境要因を排除したとき、候補者本人の力として何が残るかを問いたい。
横浜港をよく散歩するのだが、そこで夕方に出会う経営者と話すことがある。「採用で一番見るのは、環境に関係なく動ける人か」という話を、複数の経営者から同じように聞いている。面接で語る実績は、環境から切り離して語れるかどうかが分岐点だ。
構造3:年収維持を前提に交渉する
「現在650万なので、同水準で」という要望は、一見合理的に見える。しかし採用側の論理で言うと、これは等級構造を無視した交渉になりやすい。
多くの企業には等級(グレード)とそれに対応する年収レンジがある。35歳でマネージャー職に就く場合、その等級に対応するレンジが550〜680万であれば、650万は「レンジ内」として通る可能性がある。しかし680万の実績を持つ人が同じポジションに応募した場合、「等級を超えた支払いはできない」という壁が出てくる。
年収交渉で失敗するのは、希望額が高いからではなく、相手の等級構造を理解せずに交渉するからだ。等級×レンジの構造を事前に把握することが、交渉成功の前提になる。
30代後半で選考を通過するための3ステップ
3つの構造が分かれば、対策は具体的になる。
ステップ1:実績を「課題・打手・成果」の形式に組み直す
「何を達成したか」ではなく「どんな課題があり、何をして、どうなったか」の順に整理する。この形式にすると、再現性が自然と伝わる。
ステップ2:実績から環境要因を分離する
自分の行動と、チーム・市場・会社ブランドなどの環境要因を切り分けて整理する。「自分の手柄」として語れる部分だけを、面接では前面に出す。
ステップ3:応募先の等級構造を事前調査する
求人票に「年収500〜800万」と書いてある場合、どの等級のレンジか、自分はどこに当てはまるかを先に読む。OB訪問や転職エージェントを使って等級構造を確認しておくと、交渉の精度が上がる。
よくある質問
Q. 35歳を超えると書類選考の通過率は本当に下がりますか?
A. 年齢単体での足切りは法的に難しくなっているため、表向きは下がらない企業が増えています。ただし、「経験と実績が見えない書類」は年齢に関係なく通過率が低い。退職面談で本当に言われるのは「採りたかったが材料が足りなかった」という言葉で、これは書き方の問題です。
Q. 年収を下げてでも転職するべきですか?
A. 等級構造に合わせた微調整(年収の5〜10%ダウン)と、大幅ダウン(20%以上)は別の問題です。前者は次の昇格で取り返せますが、後者は「市場が自分をそう評価している」というシグナルの可能性があります。人事部の評価会議では、大幅な年収希望ダウンは「実績への自信の欠如」と読まれることもあるため、慎重に考えてください。
Q. 管理職経験がないと35歳以降は厳しいですか?
A. 採用側の論理で言うと、管理職経験の有無より「組織への影響力をどう発揮してきたか」を見ています。プロジェクトリードやメンター経験でも、再現性が語れれば評価は十分可能です。
Q. 転職エージェントに「35歳以上は難しい」と言われました。どう受け取れば?
A. エージェントが扱う求人のポートフォリオによって、そのエージェントにとって難しいだけの場合があります。ミドル専門のエージェントに並行して相談することで、市場全体の感触が変わることは多い。一社の意見を業界全体の評価と混同しないよう注意してください。
Q. 最終面接でよく落ちます。何が原因でしょうか?
A. 最終面接は経営層が「この人と一緒に働けるか」を判断する場です。退職面談で本当に言われるのは「論理は通っていたが、会社の方向性との一致が見えなかった」という理由で、これはスキルではなく「この会社でどう貢献するか」への解像度の問題です。企業の経営課題を事前に調べ、自分のキャリアとどう接続するかを具体的に語る準備が必要です。
参考資料
- エン株式会社「転職コンサルタントが予測する2026年の転職市場」2026年
- パーソルキャリア「ミドル・シニア転職市場の動向レポート」2026年
- マイナビ「中途採用状況調査2026年版」株式会社マイナビ
- ニッセイ基礎研究所「35歳転職限界説の現在地——労働市場の構造変化と採用行動」2025年
- doda「転職求人倍率レポート(2026年7月)」パーソルキャリア株式会社





