北海道の「移住支援金」は国の制度をそのまま実施している

最初に誤解されやすいポイントを整理しておく。

「北海道の移住支援金」と「国の移住支援金」は、別の制度ではない。内閣府が設計した「地方創生移住支援事業(移住支援金)」という国の枠組みを、北海道が「UIJターン新規就業支援事業」という名称で実施している。原資は国と北海道が折半して自治体に交付する仕組みだ。申請窓口は移住先の市町村、問い合わせ先は「北海道経済部労働政策局産業人材課」または移住先市町村の担当課になる。

つまり、北海道独自の上乗せ部分はほぼない。かわりに各市町村が独自の住宅補助・就職奨励金を設けており、国の制度と組み合わせることで実質的な受取額を増やせる。このしくみを理解しておくと、「なにを・どこに・どの順番で申請するか」が見えやすくなる。

いま申請できる制度(2026-09-02 時点)

① 北海道UIJターン移住支援金(メイン制度)

令和8年度の受付は2026年4月1日から始まっており、申請締切は2027年1月20日(消印有効)だ。予算に上限があるため、年度途中で受付終了になる可能性がある点には注意したい。

対象者の要件(5つすべてに該当すること)

  • 住民票を移す直前の10年間のうち通算5年以上、東京23区内に在住または東京23区内へ通勤していた
  • 申請直前の1年間は継続して上記の状態だった
  • 北海道内の対象市町村に2019年4月1日以降に転入した
  • 転入から申請まで1年以内
  • 転入後5年以上継続して居住する意思がある

支援金額(2026-09-02 時点)

区分金額
世帯(2人以上)最大 100万円
単身最大 60万円
18歳未満の子を同伴1人につき最大 100万円加算(市町村による)

就業形態の条件(以下いずれかに該当すること)

  • 北海道が指定するマッチングサイト掲載の対象法人求人に応募・採用(週20時間以上の無期雇用)
  • テレワークで週20時間以上の恒常的な勤務を継続
  • 道の補助金を受けた起業(起業支援金の交付決定者)
  • 移住先市町村が独自に設定した要件に該当

返還要件

  • 全額返還:転入後3年未満での転出、または申請後1年以内の離職
  • 半額返還:転入後3年以上5年以内での転出

② 地方就職学生支援事業(大学生・院生向け)

都内に本部がある大学・大学院の学部生・院生が、卒業後に北海道内の31対象市町村の企業に就職した場合に、就職活動交通費の半額と引越費用の実費を支給する制度だ。移住支援金と同一の事業(UIJターン新規就業支援事業)として実施されており、窓口も同じだ。

③ 各市町村の独自支援(住宅・就職・生活費)

北海道経済部労働政策局産業人材課が公表している市町村別一覧から、2026-09-02 時点で確認できた主な制度を以下に示す。ただし各制度の詳細は市町村ごとに異なり、年度で変更されるため、移住先の担当窓口に直接確認すること。

就職・奨学金系

  • 芦別市:U・Iターン就職奨励金(市内事業所に就職した移住者に50万円分の地域限定商品券を支給)
  • 深川市:奨学金返還支援(返済額の1/2以内、年額24万円を上限)

住宅系

  • 厚岸町:住宅新築補助(50万円。子育て世帯加算で最大70万円)
  • 苫前町:空き家改修補助(改修費の1/2以内、上限30万円)
  • 秩父別町:住宅用地取得補助(購入価格の2/3、上限100万円)、家賃補助(上限25,000円/月)

生活費系

  • 厚岸町:引越費用補助(費用の1/2以内、上限10万円)

申請の順番と「先に取ると他が取れなくなる」パターン

移住支援金の申請で最もよくある失敗が「順番のミス」だ。基本の流れは以下のとおり。

  1. 対象求人に応募・内定を得る(マッチングサイト掲載日以降に応募した求人であることを確認する)
  2. 北海道内の対象市町村に転入(住民票を移す)
  3. 転入後1年以内に移住先市町村窓口へ申請

重要なのは「内定が先」という点だ。先に転入してから仕事を探しても申請できないわけではないが、転入後に対象のマッチングサイト掲載求人に応募・採用される必要がある。転入前に進んでいた選考がサイト非掲載だった場合、対象外となるリスクがある。

国の移住支援金と市町村独自制度の併用

多くの場合は同時に受給できる。国の移住支援金(都道府県・国費)と、市町村の住宅補助・奨学金返還支援は別財源のため、原則として重複申請が可能だ。ただし一部の市町村では「他の公的補助金を受給している者は対象外」とする独自ルールを設けている場合があるため、移住先市町村の担当窓口へ事前に確認すること。

起業支援金との組み合わせ

「まず起業支援金(最大200万円)を取ってから、移住支援金も取る」というパターンも可能だ。内閣府の地方創生補助金を受けた起業は、移住支援金の就業要件(起業支援金交付決定者)に該当する。順番としては、起業支援金の交付決定を受けた後に移住支援金を申請する流れになる。

よくある不採択・返還要求の理由

エージェントとして移住支援金の相談を受けてきた経験から、よくあるつまずきポイントを整理した。

1. マッチングサイト経由でない求人に就職した

移住支援金の就業要件を満たすには、北海道が指定するマッチングサイトに掲載された求人への就業が必要だ。一般の求人サイトやハローワーク経由の採用では対象にならない。面接が進む前に、応募先企業がマッチングサイトに掲載されているか確認しておくこと。

2. 応募時点でサイトに掲載されていなかった

「求人は後からサイトに掲載された」というケースで、応募が掲載日より前だったため対象外と判断される例がある。掲載日より後に応募したことを証明できる記録を残しておくと安全だ。

3. 転入後1年の申請期限を過ぎた

引越し後の手続きに追われて申請を後回しにしているうちに期限を超えてしまうケースがある。転入手続きと同時に申請の準備を始めること。

4. 申請後1年以内に離職した

全額返還が求められる。移住直後のミスマッチで辞めてしまうリスクに備え、移住前に企業の内情をエージェント経由でしっかり確認しておくことをすすめる。正直なところ、この返還トラブルの相談は珍しくない。

過去の制度(次年度の参考)

2026-09-02 時点の確認では、令和8年度の移住支援金は現在受付中だ。令和元年度(2019年度)から制度が開始されており、毎年度で金額・要件・対象市町村が見直されてきた。特に令和4年度(2022年度)まで一部の市町村で設定されていた加算額は、その後変更されたものもある。

令和9年度(2027年度)以降の制度内容は、例年3〜4月ごろに北海道庁のサイトに公表される。2027年以降の移住を検討している場合は、令和9年度の公表を待って最新情報を確認すること。なお、国の地方創生事業そのものは継続方針であり、次年度も類似の制度が継続される見込みが高い。

FAQ

東京都以外から北海道に移住しても支援金はもらえますか?

国の移住支援金(UIJターン新規就業支援事業)は、移住元が「東京23区内在住または通勤」であることが要件です。東京圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)在住でも東京23区への通勤実績がない場合は対象外になります。ただし一部の市町村では、東京圏以外からの移住者を対象にした独自制度を設けているケースもあるため、移住先の市町村へ直接ご確認ください。

テレワークのまま北海道に移住する場合も支援金をもらえますか?

要件を満たせばもらえます。週20時間以上の恒常的なテレワーク勤務が継続できる場合、就業要件を満たします。ただし、転入後もテレワーク形態が維持できることを示す書類(勤務先からの証明書等)の提出が必要になるため、事前に勤務先に確認しておきましょう。

申請先は北海道庁ですか、それとも市町村ですか?

申請先は「移住先の市町村」です。北海道庁は制度を統括・補助していますが、実際の審査・交付は各市町村が行います。たとえば札幌市は委託事務局(株式会社パソナ)に郵送する形式です。移住先が決まったら、その市町村の担当窓口に申請方法を確認してください。

移住支援金と市町村の住宅補助を同時に受け取れますか?

多くの場合は同時受給が可能です。移住支援金は国・道費、住宅補助は市町村独自の制度であるため、原則として重複受給できます。ただし一部の市町村では他の公的補助金受給者を対象外とするルールを設けている場合もあるため、移住先の市町村窓口へ事前確認を強くすすめます。

転入と内定はどちらを先にすべきですか?

内定(就職先の確保)を先にするのが安全です。マッチングサイト経由での就業要件を満たすには「掲載日以降に応募した求人」であることが条件になるため、先に転入してしまうと転入後に見つかった求人しか対象にならず、リスクが上がります。転職活動を先に進め、内定後に転入手続きを行う流れが基本です。

参考文献