休職して、治療を終えて、主治医の許可も出て、産業医の面談も通過した。「やっと戻れる」と思って出社した初日、自分の席にあったはずの書類はなく、プロジェクトは別の人が回していて、同僚は目を合わせるけど何を話していいかわからない顔をしている——。
退職面談1000件超を担当してきた経験から言えば、休職復帰後に辞める人のパターンには明確な構造があります。退職面談で本当に言われるのは「休職したことは後悔していない。でも、復帰した後に居場所がなかったことが一番つらかった」という言葉です。
レバレジーズ株式会社が2025年に実施した「メンタルヘルス不調による休職者の実態調査」によれば、休職明けに約5割が退職し、20代では7割超が退職しています。さらに復職した人の53.7%が再休職を経験しており、再休職までの期間は1年未満が過半数です。
この記事では、退職面談1000件で見た「休職復帰後に居場所がない」と感じる人が辞めていく3つの構造パターンと、復職後の自己防衛ステップを解説します。
パターン1:「元の仕事に戻れない」のに誰も説明しない——業務復帰設計の不在
復職後に最初につまずくのは、戻るべき場所が設計されていないパターンです。
休職中、自分が担当していた業務は誰かに引き継がれています。それは当然のことです。しかし問題は、復職後に「では何をやるのか」が具体的に設計されていないケースが驚くほど多いことです。
人事部の評価会議では「復職者には無理をさせないように」という方針が共有されます。しかし「無理をさせない」の具体的な中身——どの業務をどの範囲でどの期間やるのか——は、現場の上司に丸投げされていることがほとんどです。上司も対応に慣れていないため、「とりあえず軽い仕事を」と雑務を振るか、逆に「本人が希望するなら前と同じ仕事を」と休職前の業務をそのまま戻すかの二択になりがちです。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職を5つのステップで設計するよう求めています。しかし令和6年の労働安全衛生調査によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は63.2%にとどまり、50人未満の事業所では半数前後しか対策を実施していません。復職支援プログラムの整備はさらに遅れているのが実態です。
退職面談1000件のデータで見ると、復職後に辞めた人の大半が「何をすればいいのかわからない時間が一番つらかった」と語ります。採用側の論理で言うと、業務が設計されていない復職者は評価会議で名前が出ない——成果を語る材料がないからです。成果がなければ存在感が薄れ、存在感が薄れれば孤立し、孤立すれば辞めたくなる。この構造は本人の弱さとは無関係に進行します。
ポイント:復職後の業務内容が「とりあえず」で始まっている場合、それは配慮ではなく設計の不在です。復職初月に「3ヶ月後にどの業務をどのレベルでやっているか」を上司と共有できていなければ、漂流が始まります。
パターン2:「腫れ物扱い」が善意のつもりで孤立を生む——過剰配慮による透明人間化
復職後に二番目に多いのは、周囲の善意が孤立をつくるパターンです。
「あの人は休職していたから、飲み会には誘わないほうがいいよね」「負荷の高い仕事は振らないほうがいいよね」「プライベートなことは聞かないほうがいいよね」——こうした配慮は、一つひとつは善意です。しかし、それが積み重なると復職者は透明人間になります。
会議には呼ばれるが発言を求められない。チャットで情報は流れてくるがメンションされない。ランチに誘われなくなったのは嫌われたのか、気を遣われているのかもわからない。朝6時に起きてヨガで体を整え、「今日こそちゃんと働こう」と出社しても、やることがない。周囲の善意が、静かに居場所を消していきます。
レバレジーズの調査では、復職した人の53.7%が再休職しており、再休職までの期間は1年未満が過半数です。再休職の原因の多くは、元の病気の再発というより、復職後の環境に適応できなかったことにあります。退職面談で本当に言われるのは「配慮してもらっているのはわかる。でも、配慮されているのに居場所がないのが一番きつかった」という言葉です。
20年の人事キャリアで、復職後に安定した人と再休職した人の違いを見てきました。安定した人には例外なく、復職直後に「仕事の話を普通にしてくれる人」が1人いました。特別な配慮ではなく、普通に仕事の相談をしてくれる存在が、復職者の居場所をつくっていたのです。
ポイント:「気を遣われている」と感じたら、それは配慮ではなく距離です。周囲が遠慮しているなら、自分から「このくらいの仕事なら大丈夫です」と伝えることが、透明人間化を防ぐ最初の一手になります。
パターン3:「以前の自分」に戻ろうとして再び壊れる——休職前基準への焦り
復職後に最も危険なのは、休職前の自分を基準にしてしまうパターンです。
「休職する前はこのくらい普通にできていたのに」「同期はもっと先に進んでいるのに」「早く元に戻らないと評価が下がる」——この焦りが、回復途上の心をもう一度追い詰めます。
退職面談1000件のデータで見ると、再休職までの期間が1年未満のケースが過半数を占める最大の原因は、元に戻ろうとする焦りが再発を加速させている構造にあります。休職前と同じペースで働こうとし、同じ成果を出そうとし、「休職していた分を取り戻さなければ」と無意識に120%で走り始める。しかし、回復は直線的ではありません。調子がいい日と悪い日が交互に来る中で、悪い日の自分を「まだダメだ」と否定するループが回り始めると、再発の入り口に立つことになります。
人事部の評価会議では復職者の評価は「慎重に」扱われます。しかし、「慎重に」の実態は「評価を保留する」であることが多く、復職者は自分がどう評価されているのか見えないまま不安だけが膨らみます。評価が見えなければ、「もっと頑張らなければ」と自分を追い込むしかない。この構造が、焦りと再発の悪循環をつくっています。
横浜港を散歩しながら考え事をするのが習慣の私ですが、復職者のカウンセリングに関わった際に最も印象に残った言葉があります。「休職前の自分に戻りたいと思っていたけど、あの自分が壊れたんですよね」。この気づきが出るまでに半年かかった人もいれば、最後まで出なかった人もいます。出なかった人の多くが、再休職か退職を選んでいます。
ポイント:「以前の自分」ではなく「今の自分のベスト」を基準にしてください。休職前の100%が今の120%に相当しているなら、それは無理をしている証拠です。
復職後の自己防衛3ステップ:組織に頼れない構造の中で自分を守る方法
ステップ1:復職後3ヶ月の業務イメージを自分で言語化する
上司や人事から提示されるのを待つのではなく、「復職後1ヶ月でこの業務を覚え直す、2ヶ月目でこの範囲を担当する、3ヶ月後にはここまでやれるようにしたい」という自分なりのプランを書き出してください。完璧である必要はありません。書いたものを上司と共有するだけで、「何をすればいいかわからない」という漂流状態から抜け出せます。厚生労働省の職場復帰支援の手引きでも、復職者自身が主体的に復帰プランに関与することの重要性が指摘されています。
ステップ2:「今の自分のベスト」を基準にする
休職前の自分と比べるのをやめる。これは言うほど簡単ではありませんが、具体的にできることがあります。毎日の退勤時に「今日できたこと」を1つだけメモしてください。議事録を1本書けた。会議で1回発言できた。同僚と5分間雑談できた。小さなことで構いません。「できたこと」の記録が積み重なると、「前の自分」ではなく「今の自分」が基準になっていきます。
ステップ3:定期的に話す相手を1人確保する
退職面談で復職後に安定した人と再休職した人の最大の違いは、定期的に話す相手がいたかどうかです。産業医でも、社外の友人でも、カウンセラーでも構いません。「今こんな状態です」を2週間に1回言語化する場があるだけで、自分の変化に気づけるようになります。復職後の不安は、頭の中で回し続けると膨張します。声に出して初めて「それは普通の反応だよ」と返してもらえる。その1回が、再休職を防ぐ防波堤になります。
FAQ
Q1. 復職後にすぐ退職するのは法的に問題ありますか?
法的には問題ありません。休職復帰後であっても、通常の退職手続き(退職届の提出、就業規則に定められた予告期間の遵守)を踏めば、いつでも退職できます。ただし、傷病手当金の継続受給を考えている場合は、退職日の設定に注意が必要です。退職日に出勤すると継続給付の要件を満たさなくなる場合があるため、事前に確認してください。
Q2. 復職後の業務が休職前と全く違う場合、拒否できますか?
採用側の論理で言うと、企業には人事権に基づく配置転換の裁量があるため、原則として拒否は難しいです。ただし、復職後の配置転換が「嫌がらせ目的」や「退職に追い込む意図」で行われている場合は、不当な配転命令として争える可能性があります。まずは配置転換の理由を人事に確認し、納得できない場合は産業医や労働組合に相談してください。
Q3. 復職後に「前と同じように働いて」と言われたらどうすべきですか?
厚生労働省の職場復帰支援の手引きでは、復帰直後から休職前と同じ業務量・責任を負わせることは推奨されていません。上司にこのガイドラインの存在を伝えた上で、「まず1ヶ月はこの範囲で、その後段階的に戻したい」と具体的な提案をしてみてください。人事部にも並行して相談することで、上司個人の判断に依存しない体制をつくれます。
Q4. 復職後に腫れ物扱いされている気がしますが、自分の思い込みかもしれません。どう判断すればいいですか?
「思い込みかもしれない」と自問できている時点で、判断力は正常に機能しています。判断の基準は休職前と比べて仕事上の接点が減ったかどうかです。会議の参加数、チャットでのメンション数、ランチや雑談の頻度を2週間記録してみてください。客観的なデータがあれば、上司や人事に「もう少し仕事を振ってほしい」と伝える根拠になります。
Q5. 再休職したら評価が終わるのではないかと不安です。
人事部の評価会議では、再休職は「本人の弱さ」ではなく「復職設計の失敗」として扱われることが増えています。特に厚生労働省が復職支援の5ステップを明示して以降、再休職の責任を個人に帰する評価は減少傾向にあります。ただし現実として、再休職が長期化すると社内での存在感が薄れるリスクはあります。だからこそ、再休職を防ぐために復職初期の3ステップが重要なのです。
まとめ
休職復帰後に辞める人の大半は、本人が弱いから辞めるのではありません。業務計画の不在、過剰配慮による孤立、休職前基準への焦り——この3つの構造が復職者を追い詰めた結果です。
レバレジーズの調査が示す「復職者の約5割が退職」「再休職までの期間は1年未満が過半数」という数字は、個人の努力不足ではなく、組織の復職設計の構造的な欠陥を映しています。
復職後に安定する人は例外なく、復職初期に自分がやるべきことを言語化できており、定期的に話す相手を持っています。組織の復職支援が不十分でも、この2つだけは自分で設計できます。まずは「復職後3ヶ月の自分」を書き出すことから始めてください。書けなかったら、それが最初のSOSです。そのときは1人に「書けなかった」と伝えてください。退職面談1000件のデータが示すのは、早期に不安を言語化できた人と限界まで黙っていた人では、回復までの期間に3倍以上の差があるという事実です。
参考文献
- レバレジーズ株式会社「メンタルヘルス不調による休職者の実態調査」(2025年9月)——休職明けの約5割が退職、20代は7割超が退職、復職者の53.7%が再休職経験あり、再休職までの期間は1年未満が過半数
- 厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」(2025年8月公表)——メンタルヘルス不調で1か月以上休業・退職した労働者がいた事業所12.8%、メンタルヘルス対策に取り組む事業所63.2%
- 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」——復職支援の5ステップ(病気休業開始・主治医による職場復帰可能の判断・職場復帰の可否の判断と計画の作成・最終的な職場復帰の決定・職場復帰後のフォローアップ)
- パーソル総合研究所「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」(2024年12月)——20代男性18.5%・20代女性23.3%がメンタルヘルス不調経験






