離職票に「自己都合」と書かれていたら、まず疑うべき理由
社労士として退職相談を受ける中で、月に数件のペースで入ってくるのが「離職票を見たら自己都合になっていた。でも実際は退職勧奨を受けて辞めたのに」という相談だ。
労働基準法第22条によると、労働者は退職時に使用証明書を請求する権利がある。しかし、離職票の離職理由は会社側が記載するため、実態と異なる理由が書かれるケースは珍しくない。監督官時代に見たのは、助成金の受給要件を守るために会社都合を避けたい企業が、退職勧奨で辞めさせた社員の離職理由を「自己都合」に書き換えるパターンだ。
この問題は単なる書類上の話ではない。離職理由が「自己都合」か「会社都合」かで、失業保険の給付開始時期と給付日数に大きな差が出る。具体的には以下の通りだ。
| 項目 | 会社都合(特定受給資格者) | 自己都合(一般離職者) |
|---|---|---|
| 給付制限 | なし(7日間の待機のみ) | 7日間の待機+原則1ヶ月※ |
| 給付日数(勤続10年・35歳) | 最大240日 | 最大120日 |
| 被保険者期間の要件 | 6ヶ月以上 | 12ヶ月以上 |
※2025年4月の雇用保険法改正により、自己都合退職の給付制限は従来の2ヶ月から1ヶ月に短縮された。ただし5年以内に3回以上の自己都合退職の場合は3ヶ月。
つまり、離職理由が不当に「自己都合」とされたまま放置すると、受け取れる失業保険の総額が数十万円単位で減る。これは法的根拠に基づいて覆せる問題であり、泣き寝入りする必要はない。
「自己都合にされやすい」5つのパターン
相談事例を整理すると、本来は会社都合であるにもかかわらず自己都合として処理されやすいケースは、以下の5パターンに分類できる。
パターン1:退職勧奨に応じた場合
上司から「もう辞めたほうがいい」と言われて退職を決意したケース。会社側は「本人が納得して辞めた」と主張し、自己都合として処理する。しかし、退職勧奨による離職は雇用保険法上「会社都合」に該当する(特定受給資格者の範囲:事業主からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職)。
パターン2:長時間残業が常態化していた場合
離職の直前6ヶ月間のうち3ヶ月連続で月45時間以上、または1ヶ月で100時間以上の時間外労働があった場合、特定受給資格者に該当する可能性がある。
パターン3:パワハラ・セクハラが原因の場合
上司のハラスメントが原因で退職した場合も、特定受給資格者の要件を満たす可能性がある。行政指導の対象になります——ハラスメントの事実が確認されれば、離職理由の変更は十分に認められる。
パターン4:給与の未払い・大幅減額があった場合
賃金の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が2ヶ月以上あった場合や、賃金が85%未満に低下した場合も特定受給資格者の要件に該当する。
パターン5:契約更新を期待していたのに雇い止めされた場合
有期契約の更新を希望していたにもかかわらず更新されなかった場合は、特定理由離職者に該当し、給付日数で会社都合と同等の扱いを受けられる。
ハローワークで離職理由を覆す異議申し立て3ステップ
ステップ1:証拠を整理する
異議申し立ての成否は証拠の有無で決まる。以前、違法残業100時間超の20代女性から相談を受けた際にも、最初に助言したのは証拠保全だった。タイムカード写真・メールの保存から始めて、労基署申告、弁護士連携と進めた結果、未払残業代180万円を回収できた。法的根拠は労働者の最大の武器であり、証拠がなければその武器は使えない。
離職理由の異議申し立てに有効な証拠は以下の通りだ。
- 退職勧奨の記録:面談の録音データ、メール・チャットのスクリーンショット
- 長時間労働の記録:タイムカードの写真、PCログオン・ログオフ記録、業務メールの送信時刻
- ハラスメントの記録:日時・場所・内容を記した業務日誌、目撃者の証言メモ
- 給与関連:給与明細、雇用契約書、労働条件通知書
- 退職届のコピー:退職届の提出日と退職理由の記載内容
朝5時に起きて判例と行政通達をチェックするのが日課だが、証拠保全の重要性は何百件の相談を受けても変わらない結論だ。
ステップ2:ハローワークで異議を申し立てる
離職票が届いたら、ハローワークでの求職申し込み時に以下の手続きを行う。
- 離職票-2の「離職理由」欄の「⑯ 離職者本人の判断」で「事業主が○を付けた離職理由に異議 有り」に○を付ける
- 「具体的事情記載欄(離職者用)」に、実際の退職事情を記載する
- 窓口で証拠書類を提示し、離職理由の変更を申し立てる
ハローワークは事業主と離職者の双方から事情を聴取し、事実関係を調査した上で離職理由を判定する。会社側の記載がそのまま確定するわけではない——これが最も重要なポイントだ。
厚生労働省の「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」(2025年7月版)に基づいて、ハローワークが独自に判定を行う。会社の記載と異なる判定が下されることは珍しくない。
ステップ3:判定結果を確認し、必要に応じて審査請求を行う
ハローワークの判定結果に不服がある場合は、雇用保険審査官に対して審査請求ができる(雇用保険法第69条)。審査請求の期限は処分を知った日の翌日から3ヶ月以内だ。
審査請求でも認められない場合は、さらに労働保険審査会に再審査請求を行うことも可能だ(雇用保険法第71条)。
ただし、実務上はステップ2の段階で証拠が十分であれば、ハローワークの判定で離職理由が覆るケースが大半だ。審査請求まで進むケースは限定的である。
異議申し立てで注意すべき3つのポイント
1. 退職届に「一身上の都合」と書いてしまった場合
退職届に「一身上の都合」と記載していても、それだけで自己都合と確定するわけではない。退職届の記載内容と実際の退職事情は別の問題として扱われる。退職勧奨を受けた後に形式的に退職届を書かされたケースでは、退職勧奨の事実が確認されれば会社都合と判定される。
2. 離職票が届いてから14日以内にハローワークに行くべき理由
雇用保険の受給手続きは、離職票をハローワークに提出した日が起算日となる。提出が遅れれば、その分だけ給付開始が遅れる。離職票が届いたら速やかにハローワークへ向かい、その場で異議を申し立てるのが最善だ。
3. 会社に直接変更を求める方法もある
ハローワークへの異議申し立てと並行して、会社に対して離職理由の訂正を直接求めることも可能だ。書面(内容証明郵便)で法的根拠を示して訂正を求めると、会社側が自主的に訂正届を提出するケースもある。労働基準法第22条によると、労働者には退職時の証明書を請求する権利がある。
よくある質問(FAQ)
Q1. 退職から数ヶ月経っていますが、今からでも異議申し立てはできますか?
A. 失業保険の受給期間内(原則として離職日の翌日から1年間)であれば、異議申し立ては可能です。ただし、証拠の散逸を防ぐためにも早めの対応を推奨します。
Q2. 退職代行を使って辞めた場合でも、離職理由の異議申し立てはできますか?
A. 退職代行の利用は退職の「手段」であり、離職理由の判定とは別の問題です。退職勧奨やハラスメントが原因で退職代行を利用した場合、その原因事実が確認されれば会社都合と判定される可能性があります。
Q3. 異議申し立てをしたら会社に報復されませんか?
A. 既に退職しているため、会社側が労働者に対して不利益な措置を取ることは困難です。また、ハローワークが事業主に事実確認を行う際も、誰が異議を申し立てたかは特定されません。なお、離職後の嫌がらせに対しては、民事上の損害賠償請求も検討できます。
Q4. 会社都合になると転職活動で不利になりませんか?
A. 離職理由が「会社都合」であることは、転職先に対して開示する義務はありません。面接では退職理由を自分の言葉で説明すれば足ります。失業保険の給付条件で不利益を受けてまで「自己都合」にこだわる合理的な理由はありません。
Q5. 2025年4月の法改正で自己都合退職の給付制限が1ヶ月に短縮されましたが、それでも異議申し立ての意味はありますか?
A. あります。給付制限の短縮は1つの変更点に過ぎず、給付日数の差は依然として大きいままです。例えば勤続10年・35歳の場合、会社都合なら最大240日、自己都合なら120日と、倍の差があります。受給総額で数十万円の差が出るため、異議申し立ての意味は十分にあります。
参考文献・出典
- 厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」ハローワークインターネットサービス
- 厚生労働省「退職勧奨後、離職票に自己都合退職と記載されました。対処法は?」確かめよう労働条件 Q&A
- 雇用保険法 第69条(審査請求)、第71条(再審査請求)
- 労働基準法 第22条(退職時等の証明)
- マネーフォワード クラウド給与「退職勧奨を自己都合にされたら?離職票を会社都合にする方法や手続きを解説」






