「退職すれば最大200万円の給付金がもらえます」「失業保険の受給額を増やすサポートをします」——こうしたSNS広告を見たことがある人は多いだろう。

私は労働基準監督署で7年、退職トラブルの最前線にいた。独立して社労士事務所を構えた今、この手の「退職給付金サポート」に引っかかった相談が月に3〜4件のペースで入ってくる。

結論から言う。雇用保険法第10条の4に基づき、不正受給が認定されれば「3倍返し」——つまり受給額の返還+その2倍の納付命令が下る。20万円を不正に得たなら、60万円を支払うことになる。「サポート費用30万円+3倍返し」で、退職者が二重に損をする構造だ。

相談件数5倍——何が起きているのか

国民生活センターは2025年12月3日、「失業保険の給付額等を増やすことができるとうたう申請サポート」に対する異例の注意喚起を発表した。相談件数の推移を見れば深刻さがわかる。

  • 2021年度:42件
  • 2022年度:54件
  • 2023年度:113件
  • 2024年度:217件
  • 2025年度:216件(10月31日時点、前年度比2.4倍ペース)

5年で5倍超。これは「退職代行」の普及と同時期に、退職周辺サービスの市場が膨張した結果だ。監督官時代に見たのは、こうした「制度の隙間」に入り込む業者が、法規制の整備より先に市場を作ってしまうパターンだった。

「退職給付金サポート」3つの典型手口

手口①:特定理由離職者への誘導

通常の自己都合退職では、失業保険の給付制限期間は原則2ヶ月、給付日数は90〜150日だ。しかし「特定理由離職者」に認定されると、給付制限なし・給付日数が最大330日に伸びる。

悪質業者はここに目をつけ、「メンタル不調」を理由にした離職を誘導する。具体的には、指定のクリニックで「適応障害」の診断書を取らせ、それをハローワークに提出させる。実際には精神的不調がなくても、だ。

労働基準法第〇条によると——ではなく、これは雇用保険法第10条の4「偽りその他不正の行為」に該当する。診断書の内容が事実でなければ、本人が不正受給の当事者となる。業者は「サポートしただけ」と逃げる。

手口②:「退職給付金」という架空の制度名

そもそも「退職給付金」という名称の公的制度は存在しない。実態は雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)、傷病手当金、あるいは教育訓練給付金を組み合わせたものを、あたかも一つの「もらえるお金」として見せている。

朝5時に起きて行政通達をチェックする日課の中で、こうした用語のすり替えが最も危険だと感じている。制度名を曖昧にすることで、何の申請を代行しているのかを本人が把握できなくなる。結果、不正受給に加担していたことすら気づかない。

手口③:高額な「サポート費用」+解約拒否

典型的な費用構造はこうだ。

  • 初期費用:3〜5万円
  • 成功報酬:受給額の10〜20%
  • 合計:20〜40万円になるケースが多い

そして、途中で「おかしい」と気づいて解約を申し出ると、「違約金」を請求される。国民生活センターに寄せられた相談でも、解約トラブルは主要な論点の一つだ。

不正受給が認定されたらどうなるか——法的根拠を整理する

雇用保険法第10条の4第1項は明確に規定している。

偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合には、政府は、その者に対して、支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、当該偽りその他不正の行為により支給を受けた失業等給付の額の2倍に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができる。

つまり、不正受給が発覚した場合のペナルティは以下の3段階だ。

  1. 支給停止:不正行為があった日以降、失業等給付が一切支給されない
  2. 返還命令:不正に受給した全額の返還
  3. 納付命令(3倍返し):返還額とは別に、不正受給額の2倍以下の納付

たとえば100万円を不正に受給した場合、最大で返還100万円+納付200万円=合計300万円。これに加えて「サポート費用」30万円が消える。

行政指導の対象になります——どころの話ではない。刑事罰(詐欺罪)に問われる可能性すらある。

「業者がやってくれたから自分は悪くない」は通用しない

監督官時代に見たのは、「指示に従っただけ」という抗弁が一切通用しない現実だった。ハローワークの調査で不正が発覚するルートは主に3つある。

  • マイナンバー連携:就労実態との突合で矛盾が発覚
  • 事業所調査:離職証明書の記載内容とハローワーク提出書類の齟齬
  • 第三者通報:同僚や元同僚からの密告(実は最多)

申請書に署名したのは本人であり、診断書を提出したのも本人だ。業者との契約書がどうであれ、行政上の責任は申請者に帰属する。これは社労士として断言できる。

正しい失業保険の受給を最大化する方法

「じゃあ正当にもらえる額を増やす方法はないのか」——ある。以下は合法的な3つのアプローチだ。

1. 離職理由の正確な申告

本当にハラスメントや長時間労働で心身を壊して退職するなら、それは正当な「特定理由離職者」だ。証拠(タイムカード、メール、診断書)を揃えてハローワークに申告すればいい。以前、違法残業100時間超の20代女性の相談を受けた際も、証拠保全→労基署申告→未払賃金請求の手順で、未払残業代180万円の回収に加え、特定受給資格者として給付日数も増えた。法的根拠は労働者の最大の武器だ。

2. 公共職業訓練の活用

ハローワークの職業訓練(公共職業訓練・求職者支援訓練)を受講すると、訓練期間中は給付が延長される。これは制度として認められた正当な方法であり、スキルアップと給付延長を同時に実現できる。

3. 社会保険労務士への正規相談

社会保険労務士法により、雇用保険関連の書類作成・提出代行ができるのは、開業登録した社労士または社労士法人のみだ。無資格業者による「申請サポート」は、そもそも社労士法第27条違反(業務の制限)に該当する可能性がある。正規の社労士に相談すれば、初回相談は無料〜数千円程度が相場であり、30万円も取られることはない。

見分けるための5つのチェックポイント

SNS広告やLINE勧誘で「退職給付金」を謳うサービスに出会ったら、以下を確認してほしい。

  1. 「退職給付金」という制度名を使っていないか——そんな制度は存在しない
  2. 「最大○○万円もらえる」と金額を断言していないか——受給額はハローワークが決定するもの
  3. 指定クリニックでの受診を指示していないか——不正受給の誘導の可能性が高い
  4. 社会保険労務士の登録番号を明示しているか——無資格なら違法の可能性
  5. 成功報酬が受給額の10%を超えていないか——正規の社労士報酬の相場を逸脱

まとめ:制度は正しく使えば味方になる

失業保険は、雇用保険料を毎月支払ってきた労働者の正当な権利だ。退職時に正しく受給することは何ら恥じることではない。

しかし、「もっともらえる」という甘い言葉に乗って不正受給に加担すれば、3倍返しの行政処分に加え、詐欺罪のリスクまで背負うことになる。30万円払って、300万円のペナルティを受ける——これが「退職給付金サポート」の正体だ。

困ったら、まずは最寄りのハローワーク、または開業社労士に相談してほしい。行政機関は味方だ。少なくとも、30万円は取らない。

よくある質問(FAQ)

Q1. 退職給付金サポートに既に申し込んでしまいました。解約できますか?

A. 消費者契約法に基づき、不当な勧誘による契約は取消しが可能です。まず消費生活センター(188)に相談し、クーリングオフの適用可否を確認してください。既に不正な申請を行ってしまった場合は、速やかにハローワークに自己申告することで、ペナルティが軽減される可能性があります。

Q2. 本当にメンタル不調で退職する場合、特定理由離職者になれますか?

A. はい。医師の診断書があり、実際に就業が困難な状態であれば、正当に特定理由離職者として認定されます。この場合は給付制限なし・給付日数の優遇を受けられます。ただし、ハローワークが事実確認を行うため、診断内容と実態が一致していることが前提です。

Q3. SNSで「社労士監修」と書いてある給付金サポートは安全ですか?

A. 「監修」と「業務受託」は全く異なります。社労士が名前を貸しているだけで、実際の運営は無資格業者というケースがあります。確認すべきは、①社労士の登録番号が明示されているか、②契約主体が社労士事務所または社労士法人であるか、③全国社会保険労務士会連合会の名簿で確認できるか、の3点です。

Q4. 不正受給はどのくらいの確率でバレますか?

A. マイナンバー連携の拡充により、就労実態との突合精度は年々向上しています。大阪労働局の公表事例では、発覚までの期間が短縮傾向にあります。「バレるかどうか」ではなく「バレた時のペナルティ」を基準に判断すべきです。3倍返し+支給停止+詐欺罪の可能性——リスクに見合うリターンは存在しません。

Q5. ハローワークに直接相談するのと社労士に相談するのと、どちらがいいですか?

A. まずはハローワークの窓口相談(無料)で、自分の受給資格・給付日数・給付制限の有無を確認してください。その上で、離職理由に争いがある場合(会社が自己都合と主張するが実態は会社都合等)は、社労士に相談して異議申立ての支援を受けるのが有効です。

参考文献

  • 国民生活センター「失業保険の給付額等を増やすことができるとうたう申請サポートに注意」(2025年12月3日)
    https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20251203_1.html
  • 雇用保険法 第10条の4(不正利益の返還命令等)
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=349AC0000000116
  • 厚生労働省 山口労働局「失業保険の給付額等を増やすことができるとうたう申請サポートに注意」(2025年12月4日)
    https://jsite.mhlw.go.jp/yamaguchi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/koyou_hoken/20251204.html
  • ハローワークインターネットサービス「不正受給の典型例」
    https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_dishonesty.html