独立3年目で言えるのは、「値決め」は営業スキルじゃなくて設計の問題だということです。
僕は大手SIerで10年間法人営業をやって、2024年に独立しました。独立3ヶ月目に月商ゼロを経験して、なんとか4ヶ月目に最初の1件を取って、そこから黒字化まで持ってきた。でも独立半年くらいの時に、ふと時給換算してみたんですよ。
時給1,800円。
会社員時代の時給換算が約3,200円だったので、ほぼ半分です。正直この月は赤字でした。独立して自由になったはずなのに、会社員時代より時間あたりの稼ぎが下がっている。これ、めちゃくちゃショックでした。
でも、あとから分析したら実力不足じゃなかった。値決めの設計を完全にミスっていたんです。
独立直後に安売りしてしまう3つの構造的理由
独立した人が安売りに陥る構造は、だいたいこの3つに集約されます。
理由①:「会社員時代の月収」をそのまま目標にしてしまう
会社員時代の手取り30万円を基準にして、「月30万稼げれば大丈夫」と考えてしまう。でもフリーランスは社会保険料・税金・経費を全部自分で払う。フリーランス協会の調査によると、会社員時代と同じ手取りを確保するには、額面で1.3〜1.5倍の売上が必要です。月30万の手取りが欲しいなら、月39〜45万の売上が必要になる。ここを読み違えると、稼いでるのに生活が苦しいという矛盾に陥ります。
理由②:「仕事がないよりマシ」で安い案件を受けてしまう
月商ゼロのときに気づいたんですけど、仕事がない恐怖って想像の3倍キツいんですよ。だから「月5万でもいいから」と安い案件を受けてしまう。問題は、安い案件で稼働が埋まると、条件のいい案件が来た時に受けられないこと。僕は独立4ヶ月目にこれをやってしまって、月8万の案件に週3日拘束されている間に、月20万の案件を断るハメになりました。
理由③:「時間×単価」でしか見積もりを出せない
SI時代の営業で「人月商売」に染まっていた僕は、最初の見積もりを全部「稼働時間×時間単価」で出していました。でもこれ、クライアントからすると「もっと安い人いるよね」と比較されるだけ。時間で売ると、自分の単価に天井ができてしまうんです。
値付け戦略①:最低受注単価を「生存ライン」から逆算する
僕がまずやったのは、これ以下では絶対に受けない最低ラインを数字で決めることでした。
具体的にはExcelで月の固定費を全部洗い出して、生存ライン(月25万円)を算出。そこに税金プール分(売上の15%)と最低限の利益を乗せて、月の最低必要売上を38万円と設定しました。
月の稼働可能日数を20日、うち営業・管理に5日取られるとして、実稼働15日。38万÷15日=日単価25,300円が最低受注ライン。これを下回る案件は、どんなに仕事が欲しくても受けないとルール化しました。
最初は怖かったです。でも撤退ラインと同じで、数字で下限を決めると「受けるか断るか」が感情じゃなく計算になる。結果として、安い案件を断れるようになったら、逆にメンタルが安定しました。
値付け戦略②:「時間売り」から「成果売り」に切り替える
次にやったのが、見積もりの出し方を根本的に変えること。
たとえば営業支援の案件で、以前は「月40時間稼働×時給5,000円=月20万円」と出していた。これを「貴社の新規商談を月5件増やす営業支援パッケージ:月額30万円」に変えました。
やることはほぼ同じです。でもクライアントが見る数字が「40時間の人件費」から「月5件の商談という成果」に変わる。SI営業10年で気づいたんですが、飲み会で取った案件は「この人に何時間いてもらうか」で値段が決まる。一方、資料で取った案件は「この提案でどんな成果が出るか」で値段が決まる。後者のほうが単価が上がるのは、比較対象が「他の人の時給」じゃなく「成果の価値」になるからです。
成果売りに切り替えた結果、同じ稼働時間で月額が1.5倍になりました。
値付け戦略③:見積もり提示時のアンカリングを設計する
3つ目は、見積もりの「出し方」の技術です。
僕がやっているのは3プラン提示。たとえば営業支援なら:
- ライトプラン(月15万円):月次レポート+メール相談
- スタンダードプラン(月30万円):週1訪問+営業同行+月次レポート
- プレミアムプラン(月50万円):週2訪問+営業チーム研修+戦略設計
人間の心理として、3つ並べると真ん中を選びやすい(これを「松竹梅効果」と呼びます)。本命のスタンダードを真ん中に置くことで、こちらが売りたい価格帯に誘導できる。
さらに、初回提案に年間スコープ案を1ページ追加するようにしました。これで先方の頭に「年間契約」の選択肢が生まれる。単発×安い案件の積み上げから、年間契約×適正単価の構造に変わると、売上の安定度がまったく違います。
値決めの設計で変わった数字
この3つの戦略を実装して、僕の数字はこう変わりました。
- 平均日単価:12,000円 → 32,000円(約2.7倍)
- 月間売上:18万円 → 42万円
- 案件継続率:40% → 75%
数字は嘘をつきません。値決めを変えただけで、稼働時間は増やさずに売上が2倍以上になった。スキルを上げたわけでも、新しい資格を取ったわけでもない。同じ仕事の「売り方」を変えただけです。
まとめ:値決めは営業力じゃなく設計力
独立して単価が下がるのは、あなたの実力が足りないからじゃない。値決めの設計が抜けているだけです。
- 生存ラインから最低受注単価を逆算する(感情を排除する)
- 時間売りから成果売りに切り替える(比較対象を変える)
- 3プラン提示でアンカリングを設計する(選ばれる構造を作る)
独立は、サービスの中身だけじゃなく「値札の貼り方」で結果が変わります。まずは自分の生存ラインを計算するところから始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 値上げしたら既存クライアントが離れませんか?
いきなり既存案件を値上げするのではなく、新規案件から新単価を適用するのが鉄則です。既存クライアントには契約更新時に「サービス内容の拡充」とセットで価格改定を提案すると、納得感が出ます。僕の場合、成果レポートの納品を追加して値上げ交渉したところ、既存4社中3社が新単価で継続してくれました。
Q2. 成果売りにしたいけど、成果を約束するのが怖いです
成果を「保証」する必要はありません。「目標値」として提示し、そこに向かうプロセスを納品物に含める形にすれば大丈夫です。たとえば「商談月5件を目指す営業支援」と書けば、5件は目標であって保証ではない。月次レポートで進捗を可視化すれば、たとえ目標未達でもプロセスに価値を感じてもらえます。
Q3. 独立直後で実績がないのに高い単価を提示できますか?
独立直後でも会社員時代の実績は使えます。僕はSI営業10年の経験を「業界知見」として提案書に入れていました。ポイントは「何年やったか」ではなく「クライアントのどんな課題を解決できるか」を具体的に書くこと。実績がない段階では、初回3ヶ月を割引価格で受けて成果レポートを作り、それを次の営業資料にする方法も有効です。
Q4. 最低受注単価を決めたら、本当に仕事が来なくなりませんか?
正直、最初の1〜2ヶ月は案件が減りました。でも安い案件で稼働を埋めないぶん、営業活動に使える時間が増えた。結果として3ヶ月目には適正単価の案件だけで生存ラインを超えました。撤退ラインと同じで、下限を決めると逆に動きやすくなります。
参考文献
- フリーランス白書2025(フリーランス協会) — フリーランスの収入実態と手取り計算の参考データ
- フリーランスの単価の決め方は?交渉のコツや報酬を上げる方法も解説(Freelance Hub) — 単価設定の基本的な考え方
- 中小企業実態基本調査(中小企業庁) — 個人事業主の経費率・利益率の統計データ






