独立3年目で言えるのは、「値決めは営業力じゃなく設計力」ということです。
僕は大手SIerで10年法人営業をやって、2024年に独立しました。独立して半年、受注は少しずつ増えてきた。忙しい日も出てきた。「これ、いけるかも」と思い始めた頃に、ふとExcelで時給換算してみたんです。
結果は時給1,800円。会社員時代の約3,200円の半分以下でした。
正直この月は赤字でした——というか、赤字以前の問題で、稼働時間だけが増えて手残りが全然ない。月商ゼロの恐怖から安い案件を片っ端から受けた結果、「忙しいのに貧しい」という最悪のループにハマっていたんです。
この記事では、僕が平均日単価を12,000円から32,000円(約2.7倍)に改善した3つの値決め設計について、数字を隠さずに書きます。
なぜ独立直後は「安い案件」を受け続けてしまうのか
フリーランス協会の「フリーランス白書2025」によると、フリーランスの年収は「200〜400万円未満」が最多(26.5%)で、400万円未満の層が半数以上を占めます。さらに2026年のFindy社の調査では、フリーランスエンジニアの平均月単価は約70〜80万円とされますが、これはIT系の上位層の数字。営業・コンサル系の個人事業主は、もっと厳しい現実があります。
僕のケースで言えば、安い案件を受け続けた原因は3つありました。
原因1:月商ゼロの恐怖が判断を歪める
独立3ヶ月目に月商ゼロを経験しました。家賃の引き落とし口座が残高ギリギリになって、前職に出戻りを本気で考えた夜もあった。その恐怖が残っていると、「案件が来た=受けなきゃ」という反射になる。単価を比較する余裕がないんです。
原因2:自分の値段がわからない
会社員時代は給料が決まっていたから、自分の時間単価を考えたことがなかった。独立して「いくらで売るか」を聞かれると、相手の予算に合わせてしまう。自分の最低ラインが定義されていないから、相手の提示額がそのまま自分の値段になる。
原因3:時間売りの罠に気づいていない
最初は「1日いくら」「1時間いくら」で見積もりを出していました。時間売りの問題は、比較対象が「他の人の時給」になること。クライアントから見れば「もっと安い人がいる」で終わる。これだと単価の天井が構造的に低くなります。
値決め設計ステップ1:最低受注日単価を「生存ライン」から逆算する
最初にやったのは、感情ではなく数字で最低ラインを決めることでした。
僕の場合、固定費の見える化を済ませた結果、生存ライン(家賃・固定費・税金・最低限の生活費)は月25万円。ここから逆算します。
【計算式】
- 生存ライン:月25万円
- 月間稼働可能日数:約20日(土日休み)
- 営業・事務で消える日数:約10日
- 実質稼働日数:約10日
- 最低受注日単価=25万円÷10日=25,000円
ポイントは「稼働可能日数」ではなく「実質稼働日数」で割ること。朝7時に起きてジムに行って、9時から営業を始めて——という1日の中で、実際にクライアントワークに充てられる時間は半分程度。ここを甘く見積もると、時給計算が再び会社員以下に転落します。
この数字を出してからは、日単価25,000円を下回る案件は受けないというルールを設定しました。月商ゼロのときに気づいたんですけど、「受けない基準」がないと、人は必ず安い方に流れます。
値決め設計ステップ2:時間売りから「成果売り」へ見積もり形式を転換する
最低日単価を決めても、時間売りのままだと限界があります。「1日3万円です」と言えば、クライアントは「じゃあ半日で1.5万円にして」と言ってくる。時間と報酬が直結している限り、値下げ交渉からは逃げられません。
そこで見積もりの形式を変えました。
【時間売りの見積もり例(Before)】
営業戦略コンサルティング:日単価12,000円 × 5日 = 60,000円
【成果売りの見積もり例(After)】
営業プロセス改善プロジェクト(成果物:営業フロー設計書+KPI設計+3ヶ月実行計画):150,000円
同じ5日分の作業でも、「5日の時間」と「営業フローの設計」では、クライアントが比較する対象が変わります。時間売りなら「他の人の日単価」と比べられるけれど、成果売りなら「その成果物の価値」が比較対象になる。単価の天井が時間ではなく成果の価値に移るのが、成果売りの構造的なメリットです。
実際、同じ内容の提案でも見積もり形式を変えただけで、受注単価が2倍以上になったケースもありました。
値決め設計ステップ3:松竹梅「3プラン提示」で本命プランに誘導する
成果売りに切り替えた次にやったのが、3プラン提示(松竹梅)のアンカリング手法です。
行動経済学の研究(Simonson & Tversky, 1992)で実証されているように、人は「高・中・低」の3つの選択肢を提示されると、真ん中を選びやすい傾向があります。これを「ゴルディロックス効果」とも呼びます。米国の通販事例では、2択から3択に変更しただけで全体売上が約20%増加したデータもあります。
僕はこれを提案書に応用しました。
【3プラン提示の設計例】
| プラン | 内容 | 価格 |
|---|---|---|
| 松(プレミアム) | 営業フロー設計+KPI設計+3ヶ月伴走+月次レポート | 450,000円 |
| 竹(スタンダード)★本命 | 営業フロー設計+KPI設計+3ヶ月実行計画 | 250,000円 |
| 梅(ライト) | 営業フロー診断レポートのみ | 80,000円 |
松を高めに設定することで、竹が「割安に見える」アンカー効果が働きます。梅は「さすがにこれだけだと物足りない」と思わせる最小構成にする。結果的に竹(本命プラン)への誘導率が上がります。
僕の場合、3プラン提示を導入してから本命プランの受注率が明らかに上がり、案件の継続率も40%から75%に改善しました。松を選んでくれるクライアントも想定以上にいて、平均単価の底上げにつながっています。
3つの設計を導入した結果
この3ステップを実行した結果、数字はこう変わりました。
- 平均日単価:12,000円 → 32,000円(約2.7倍)
- 月間売上:18万円 → 42万円
- 案件継続率:40% → 75%
数字以上に大きかったのは、安い案件を断れるようになったことです。最低受注日単価が数字で決まっているから、受注判断から感情が排除される。「この案件、ちょっと安いけど……」という迷いがなくなると、逆にメンタルが安定しました。
独立3年目で言えるのは、値決めの問題は「高く売る技術」じゃなく「安く売らない仕組み」をつくることだということ。仕組みがあれば、営業トークが苦手でも単価は上がります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 成果売りに切り替えたいけど、クライアントに「時間で見積もってほしい」と言われたらどうする?
最初は「参考として工数の目安もお伝えしますが、お見積もりは成果物ベースで出させていただきます」と添えるのがおすすめです。成果物の内容を具体的に書き出せば、時間の内訳を聞かれることは減ります。それでも時間見積もりを強く求められる場合は、そのクライアントとの相性を再考したほうがいいかもしれません。
Q2. 松竹梅の価格差はどのくらいが適切?
経験上、松は竹の1.5〜2倍、梅は竹の3分の1程度が機能しやすいです。松と竹の差が大きすぎると「松は論外」と判断されてアンカー効果が弱まります。梅は「これだけだと不安」と感じさせる最小構成にするのがポイントです。
Q3. 独立直後で実績がない状態でも成果売りはできる?
できます。ただし最初の1〜2件は「実績づくり」と割り切って、成果物のクオリティに全力を注いでください。その成果物を次の提案書に「過去の納品事例」として載せることで、2件目以降の単価交渉がぐっと楽になります。僕も最初は前職時代のスキルを武器に「SI業界の営業支援ならこの人」というポジションで絞り込みました。
Q4. 値上げのタイミングはいつが適切?
契約更新時、もしくは新しいサービスメニューを追加するタイミングが自然です。既存クライアントに対しては、成果レポートを納品した直後が最も交渉しやすい。「これだけの成果が出ました」という事実があるタイミングで、次の提案を3プランで出すのが実務的には一番スムーズです。
Q5. 安い案件を全部断ったら仕事がなくなるのでは?
最低受注日単価はあくまで「生存ライン」から逆算した数字なので、これを下回る案件を受け続けると事業自体が持ちません。ただし、売上のベース層(月額顧問など固定収入)が生存ラインをカバーしている状態を先につくることが前提です。ベース層が薄い段階では、最低ラインに若干の幅を持たせつつ、ベース層の構築を最優先にするのが現実的です。
まとめ
値決めは営業力ではなく設計力です。
- 最低受注日単価を逆算して「受けない基準」をつくる
- 時間売りから成果売りに転換して単価の天井を上げる
- 松竹梅3プラン提示で本命プランへの誘導率を高める
この3つを仕組みとして入れるだけで、同じスキル・同じ営業力でも単価は変わります。大事なのは「高く売る交渉術」じゃなく、「安く売らない構造」をつくること。独立の値決めに悩んでいる人は、まず生存ラインの計算から始めてみてください。
参考文献
- 一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2025」
- ファインディ株式会社「2026年最新調査:フリーランスエンジニアの平均月単価」
- 日経クロストレンド「人はなぜ『松竹梅』の価格設定で真ん中を選ぶのか——心理×値付け解剖」
- Simonson, I., & Tversky, A. (1992). Choice in context: Tradeoff contrast and extremeness aversion. Journal of Marketing Research, 29(3), 281-295.






