「自己都合退職でも、2025年4月から失業保険が1ヶ月でもらえるようになったらしい」——SNSでこの情報を見て、退職を決意した人もいるかもしれない。
結論から言う。半分正解で、半分は危険な誤解だ。
雇用保険法の改正で給付制限期間が2ヶ月から1ヶ月に短縮されたのは事実だが、すべての自己都合退職者に適用されるわけではない。条件を知らずに退職すると、従来どおり3ヶ月間の給付制限を受ける可能性がある。
私は労働基準監督署で7年、退職トラブルの最前線を経験し、現在は社労士として独立3年目になる。毎朝5時に起きて行政通達と判例のチェックから1日を始めるのが習慣だが、この改正に関する誤解は2025年4月以降、相談件数が最も増えたテーマの一つだ。
この記事では、雇用保険法第33条に基づく給付制限の新ルールを正確に整理し、受給額を最大化するための3つの手続きを解説する。
2025年4月改正の正確な中身——「1ヶ月」になったのは原則だけ
まず、改正の全体像を正確に把握しておく必要がある。
改正前と改正後の比較
| 項目 | 改正前(2025年3月31日以前の離職) | 改正後(2025年4月1日以降の離職) |
|---|---|---|
| 給付制限期間(原則) | 2ヶ月 | 1ヶ月 |
| 5年以内に3回以上の自己都合退職 | 3ヶ月 | 3ヶ月(据え置き) |
| 教育訓練を受講した場合 | 規定なし | 給付制限なし(解除) |
ポイントは3つある。
第一に、「1ヶ月」は原則であり、5年以内に3回以上自己都合退職を繰り返している場合は3ヶ月の給付制限が課される。転職回数が多い人は要注意だ。
第二に、教育訓練を受講すれば給付制限そのものが解除される。これは2025年4月の改正で新設された制度であり、知っているかどうかで受給開始日が大きく変わる。
第三に、改正の適用は「離職日」が基準になる。2025年3月31日以前に退職した場合は、改正前のルール(原則2ヶ月)が適用される。
見落とされがちな「教育訓練による給付制限解除」の仕組み
この改正で最もインパクトが大きいのは、教育訓練を受講した場合に給付制限が完全に解除される新制度だ。
対象となる教育訓練は以下の4類型(厚生労働省告示):
- 教育訓練給付金の対象となる教育訓練(専門実践・特定一般・一般)
- 公共職業訓練等(ハローワーク経由で申し込む職業訓練)
- 短期訓練受講費の対象となる教育訓練
- 上記に準ずるものとして職業安定局長が定める訓練
重要なのは、離職日前1年以内に受講を開始していた場合も対象になるという点だ。つまり、在職中にオンラインの教育訓練講座を受講していた人は、退職後に7日間の待期期間を経るだけで基本手当を受給できる。
監督官時代に見たのは、こうした制度を知らずに給付制限期間を丸ごと我慢してしまう人の多さだった。制度は使える人の前にしか現れない。
受給額を最大化する3つの手続き
ステップ1:離職理由を正確に確認する——「自己都合」が確定とは限らない
まず確認すべきは、本当に「自己都合退職」なのかどうかだ。
社労士として独立後、離職票に「自己都合」と書かれていても、実態は退職勧奨やパワハラが原因だったというケースを数多く見てきた。離職理由が「会社都合」と認定されれば、給付制限そのものがなくなり、給付日数も大幅に増える(例:勤続10年・35歳の場合、自己都合120日→会社都合240日)。
離職票-2の離職理由欄に異議がある場合は、ハローワークで異議申し立てが可能だ。証拠(退職勧奨のメール・録音・長時間残業の記録など)があれば、覆る可能性は十分にある。
雇用保険法第8条によると、離職理由の最終判定はハローワーク(公共職業安定所長)が行う。会社の記載が最終決定ではない。
ステップ2:教育訓練の受講で給付制限を解除する
自己都合退職が確定している場合でも、教育訓練を受講すれば給付制限を解除できる。
具体的な手順は以下のとおり:
- 退職前(離職日前1年以内)に教育訓練給付金の対象講座を受講開始する、または
- 退職後にハローワークで求職申込みと同時に公共職業訓練を申し込む
教育訓練給付金の対象講座は、厚生労働省の「教育訓練給付制度検索システム」で検索できる。オンライン完結の講座も多く、在職中でも受講可能なものが増えている。
注意点として、2025年4月1日以降に受講を開始した教育訓練が対象となる。それ以前に受講した訓練は給付制限解除の対象にならない。
ステップ3:退職前に「証拠保全5項目」を完了させる
受給額の最大化は、退職前の準備で決まる。以下の5項目を退職意思表示の前に揃えておくことが鉄則だ。
- タイムカード・勤怠記録の写真——未払い残業代がある場合、退職後の請求に必須
- 就業規則のコピー(賞与規程・退職金規程含む)——退職後に閲覧制限される場合がある
- 有給休暇の残日数の確認記録——退職時の有給消化計画の根拠になる
- 業務メール・チャットのバックアップ——退職勧奨やハラスメントの証拠になりうる
- 雇用契約書・労働条件通知書——離職理由の異議申し立てに必要
特に離職理由の異議申し立てを検討する場合、証拠の有無が結果を決定的に左右する。退職を切り出した後では手遅れになる証拠もある。
「5年以内3回ルール」に該当する場合の対処法
5年以内に3回以上自己都合退職をしている場合、給付制限は3ヶ月になる。ただし、以下の2つの方法で対処できる。
1. 教育訓練による給付制限解除を活用する——「5年以内3回ルール」に該当していても、教育訓練を受講すれば給付制限は解除される。このルートは回数制限の影響を受けない。
2. 離職理由の確認を徹底する——過去の退職のうち、実態が会社都合だったものが含まれていれば、自己都合退職の回数が減る可能性がある。
よくある質問(FAQ)
Q1. 給付制限が1ヶ月に短縮されたということは、退職後1ヶ月で失業保険がもらえるのですか?
正確には違います。退職後にハローワークで求職申込みをした日から7日間の待期期間+1ヶ月の給付制限を経て、最初の失業認定日以降に振り込まれます。実際に口座に入金されるのは、求職申込みから約1ヶ月半〜2ヶ月程度が目安です。
Q2. パート・アルバイトでも改正は適用されますか?
雇用保険の被保険者であれば雇用形態に関係なく適用されます。雇用保険に加入しているかどうかは、給与明細の控除欄で「雇用保険料」が引かれているかどうかで確認できます。
Q3. 退職代行を使った場合、自己都合退職になりますか?
退職代行の利用自体は離職理由の判定に影響しません。離職理由は退職の「原因」で判定されるため、退職勧奨やハラスメントが原因であれば、退職代行経由でも会社都合と認定される可能性があります。ただし、証拠の有無が鍵です。
Q4. 教育訓練はどの程度の受講で「受講した」と認められますか?
厚生労働省の告示では、教育訓練給付金の対象講座や公共職業訓練等に「受講を開始した」ことが要件です。講座への申込み・受講開始の記録が残っていれば認められます。詳細はハローワークの窓口で個別に確認してください。
Q5. 2025年3月以前に退職した人は、改正の恩恵を受けられませんか?
残念ながら、離職日が2025年4月1日以降であることが適用条件です。2025年3月31日以前に離職した場合は、改正前のルール(原則2ヶ月、5年以内に2回以上で3ヶ月)が適用されます。
まとめ:制度は「知っている人」の前にだけ現れる
2025年4月の雇用保険法改正は、自己都合退職者にとって大きな追い風だ。しかし、「1ヶ月で失業保険がもらえる」という表面的な理解だけでは、3ヶ月の給付制限を受けるリスクや、教育訓練による解除という最大のチャンスを見逃すことになる。
退職を考えている人は、以下の3点を退職前に確認してほしい。
- 離職理由は本当に「自己都合」なのか——異議申し立ての余地がないか
- 教育訓練の受講で給付制限を解除できないか
- 証拠保全5項目は退職を伝える前に完了しているか
労働基準法第22条によると、労働者は退職時に使用証明書の交付を請求できる。退職後の手続きで必要な書類は、在職中に請求しておくのが原則だ。制度を正確に理解し、準備を整えてから行動に移してほしい。
参考文献
- 厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00045.html - 厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00045.html - e-Gov法令検索「雇用保険法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116 - e-Gov法令検索「雇用保険法施行規則」
https://laws.e-gov.go.jp/law/350M50002000003






