採用側の論理で言うと、社内評価が高い人ほど面接で「もったいない落ち方」をする。私が採用責任者として1500名以上を選考してきた中で、最も歯がゆかったのがこのパターンだ。

マイナビ「転職動向調査2026年版」によれば、2025年の正社員転職率は7.6%と過去最高を記録した。特に30〜50代のミドル層の転職が活発化しており、「今後の昇進や昇給が見込めない」を理由に挙げる人が前年比1.5ポイント増加している。さらにワークポートの2026年春調査では、離職検討理由の1位が「キャリア成長不足・スキルの停滞」(36.8%)であり、約6割が次の転職先に「スキルアップ・市場価値の向上」を優先条件として求めている。

つまり今、「社内では評価されているが、このままでいいのか」と感じて転職市場に出る人が急増している。だが人事部の評価会議では、こうした層の面接結果が芳しくないケースが目立つのだ。

社内で優秀な人が転職面接で落ちる3つの構造

構造1:社内用語で成果を語っている——「翻訳」ができていない

面接で最も多い失敗がこれだ。「社内プロジェクトAの推進リーダーとして、B部門との連携を強化し、C指標を改善しました」——社内では通じるこの説明が、面接官には一切響かない。

面接官1500名選考で見た「合格者と不合格者の決定的な違い」を振り返ると、合格する人は必ず事業貢献を数字と業界共通言語で語れていた。たとえば「売上前年比120%」「顧客離脱率を15%から8%に改善」「チーム生産性を工数ベースで30%向上」のように、どの会社の面接官でも理解できる言葉に「翻訳」している。

不合格になる人は、社内の評価シートに書いてある文言をそのまま面接で話す。社内評価が高い人ほどこの罠に陥りやすい。なぜなら、社内用語で十分に評価されてきた成功体験があるからだ。

構造2:「評価されている」と「市場価値がある」を同一視している

社内評価は、その会社の評価制度・カルチャー・上司との関係性の中で決まる相対的なものだ。一方、転職市場での評価は「この人を採用したら、うちの事業にどんな貢献ができるか」という絶対的な問いで決まる。

厚生労働省「令和6年雇用動向調査」では、転職入職者の40.5%が前職より賃金が増加している。だが裏を返せば、約6割は賃金が横ばいか減少している。この差を分けるのが「市場で通用する言葉で自分を語れるかどうか」だ。

私は朝6時に起きてヨガをした後、午前中に記事を書くのが日課だが、その中で採用面接の振り返りメモを読み返すことがある。そこで気づくのは、社内評価A評価の人が面接でB判定になるケースの大半が、「自分の市場での立ち位置」を把握していないことに起因しているということだ。

構造3:「社内での役割」は語れるが「事業への貢献」が語れない

「マネージャーとして10名のチームを統括していました」——これは役割の説明であって、貢献の説明ではない。人事部の評価会議では、候補者が「何をやったか」ではなく「その結果、事業がどう変わったか」を見ている。

退職面談で本当に言われるのは、「自分が何に貢献したのか、実はよくわからないまま10年過ぎた」という言葉だ。社内評価が高い人でも、評価の根拠を事業文脈で言語化する訓練をしていなければ、面接の場で「役割の羅列」に終始してしまう。

マイナビの同調査で転職理由の上位に「仕事内容に不満があった」(21.0%)が入っているが、これは裏を返せば「自分の仕事の事業的意味を見失っている」状態とも読める。面接で事業貢献を語れない人は、この状態に気づかないまま転職活動に入っている可能性が高い。

社内評価を市場価値に翻訳する3ステップ

ステップ1:成果を「社外の人に伝わる数字」に変換する

まず、直近3年の成果を書き出し、それぞれを「業界の誰が聞いても理解できる指標」に変換する。「社内表彰を受けた」ではなく「売上○%向上に貢献」「コスト○万円削減」「顧客満足度○ポイント改善」のように、数字と事業インパクトで再定義する。

ステップ2:「取りに行くもの」を1文で言い切る

転職理由を聞かれたとき、「今の環境への不満」ではなく「次の環境で取りに行くもの」を1文で言い切れるようにする。「マネジメント経験を活かして事業立ち上げフェーズに関わりたい」のように、不満の裏返しではなく、意志として語れる状態が合格ラインだ。

ステップ3:社外の人間に壁打ちする

社内の同僚に話しても「わかるわかる」で終わる。社外の人間——信頼できる知人、転職エージェント、あるいはキャリアコンサルタント——に自分の経歴を話してみて、「それって具体的にどういうこと?」と聞き返された箇所が、翻訳が必要なポイントだ。

放置すると何が起きるか

社内評価が高いまま転職活動で連敗すると、「自分には市場価値がないのでは」という誤った自己認識に陥る。これが最も危険だ。実際には市場価値がないのではなく、翻訳ができていないだけなのに、自信を失って現職に留まり、数年後に「あのとき動いておけば」と後悔するパターンを、退職面談で何度も見てきた。

横浜港を散歩しながら考え事をするのが私の習慣だが、こうした「翻訳不足による機会損失」は、本人が気づかないうちに進行する。社内で評価されている今こそ、市場言語への翻訳を始めるべきタイミングなのだ。

よくある質問

Q. 社内評価が高ければ転職でも有利になるのでは?

社内評価の高さ自体は有利に働きません。面接官が見ているのは「自社の事業にどう貢献できるか」であり、前職の評価制度の詳細には関心がありません。社内評価を市場で通用する言葉に翻訳して初めて、その実績が武器になります。

Q. 翻訳力を鍛えるのに最も効果的な方法は?

社外の人間に自分の職務経歴を5分で説明し、「わからない」と言われた箇所を記録することです。3人に話せば、翻訳すべきポイントがほぼ網羅されます。転職エージェントとの面談を「練習の場」として活用するのも有効です。

Q. 転職活動を始めてから翻訳力を鍛えても間に合いますか?

間に合いますが、理想は転職活動の前段階で準備を始めることです。面接で落ちてから修正するより、事前に社外の壁打ち相手を確保しておくほうが、精神的にも戦略的にも有利です。

Q. 社内用語を使わずに成果を語るコツは?

「主語を会社名から業界共通語に変える」のが最も簡単なコツです。「当社のXシステムを改善」ではなく「BtoBのSaaS基幹システムの顧客離脱率を改善」のように、業界の誰が聞いても文脈がわかる表現に置き換えます。数字は必ずセットで添えてください。

参考文献