「評価は悪くないのに、なぜか昇進しない」——この悩みを持つ30代・40代は多い。Job総研2025年調査によれば、人事評価への不満を抱いた経験がある人は約7割に達し、昇格・昇給を待つよりも転職を選ぶ人も約7割に上る。

だが、採用側の論理で言うと、評価が「悪くない」ことと「昇進できる」ことはまったく別の話だ。私は上場企業の人事部で20年、採用責任者として1500名以上を選考し、退職面談を1000件以上担当してきた。その中で「評価は普通だったのに、なぜ昇進できなかったのか分からないまま辞めた」という人を何十人も見てきた。

本稿では、評価会議の内側で"真ん中の人"がどう扱われているかを構造的に解説する。

構造1:「問題がない人」は評価会議で名前が出ない

人事部の評価会議では、議論の時間は限られている。優先的に名前が挙がるのは「飛び抜けた成果を出した人」と「問題を抱えている人」の2種類だ。

つまり、ミスなく業務をこなし、上司との関係も悪くない"真ん中の人"は、そもそも議題に上がらない。識学の調査では、人事評価の不満理由1位が「評価の基準が不明確」(48.3%)であり、これは評価される側だけでなく、評価する側の問題でもある。

退職面談で「自分は何が足りなかったのか」と聞いてくる人の多くは、実はスキルが足りなかったのではない。評価会議で存在が認識されていなかった、というのが構造的な実態だ。

構造2:「期待しているよ」が現状維持の合図になっている

上司から「期待しているよ」と言われて安心している人は多い。だが、人事部の評価会議では、この言葉は「現時点で特に動かす理由がない」という意味で使われることがある。

マイナビ転職動向調査2026年版によれば、転職者の52.6%がキャリア停滞感を感じており、30代では「周りの評価とのギャップに悩んだ」が転職理由の上位に入っている。ギャップの正体は、上司の口頭フィードバックと評価会議での位置づけのズレだ。

朝6時に起きてヨガをしながら考え事をする習慣が20年続いているが、「期待しているよ」と言った上司が評価会議で本当にその人を推薦しているかどうか——これは人事の内側にいないと分からない。そして多くの場合、推薦していない。

構造3:成果を「社内文脈」でしか語れないまま年次だけ重なる

評価が"普通"で安定している人ほど、成果を社内用語で語る癖がつく。「Aプロジェクトを回した」「B部門との調整をやった」という表現は社内では通じるが、評価会議では事業貢献として認識されない。

doda 2025年転職理由ランキングでは「給与が低い・昇給が見込めない」が5年連続1位(36.9%)だが、昇給が見込めない構造の一因は、本人の成果が数字で語られていないことにある。

採用面接で1500名を見てきた経験から言えば、「自分は何をやったか」を事業インパクトの数字で語れる人と語れない人では、評価会議での扱われ方がまったく違う。前者は「次のポジションに推せる」と議論の俎上に載り、後者は「今のままで問題ない」と処理される。

「真ん中」から抜け出すための3つの対策

対策1:成果を数字で月次記録する

売上や件数だけでなく、「工数を何%削減した」「エラー率を何件減らした」といった改善系の数字を月末に記録する。退職面談で本当に言われるのは「もっと早く自分の実績を可視化しておけばよかった」という後悔だ。評価会議で名前を出してもらうためには、上司が使える"素材"を本人が用意しておく必要がある。

対策2:「期待しているよ」の中身を具体的に聞く

「何をどのレベルで達成すれば、次のステップに進めますか」と一度だけ聞く。この質問をする人は少数派だが、評価会議で「あの人は自分のキャリアを自分で設計している」と認識される。聞かない人は「現状に満足している」と解釈される。これが同じ評価でもキャリアに差がつく分岐点だ。

対策3:社外の壁打ち相手を1人持つ

社内評価だけを見ていると、自分の市場価値が分からなくなる。半年に1回でいい。転職エージェントでも、元同僚でも、社外の人間に「自分の経験は市場でどう評価されるか」を確認する。横浜港を散歩しながら考え事をする時間があるが、キャリアの棚卸しもそういう静かな時間に数字と向き合うことで進む。

FAQ

Q. 評価が「B」や「普通」でも昇進する人はいますか?

います。ただし例外なく、評価会議で上司以外の管理職からも名前が挙がる人です。部門を跨いで「あの人は頼りになる」と言われる可視性を持っているかが分岐点です。

Q. 上司に「何をすれば昇進できるか」と聞くのは失礼ではないですか?

人事部の評価会議では、この質問ができる人を「キャリアに主体性がある」と評価します。聞くこと自体がマイナスになることはまずありません。ただし、聞くタイミングは評価面談の場が適切です。

Q. 成果を数字にしにくい職種(総務・事務など)はどうすればいいですか?

「処理件数」「対応時間の短縮」「ミス件数の推移」など、業務改善の数字は必ずあります。数字にできないと思っている人の大半は、記録していないだけです。

Q. 転職すれば評価構造から抜け出せますか?

転職先にも評価会議は存在します。環境を変えても「可視化する技術」がなければ同じ構造に陥ります。まず現職で可視化の訓練をしてから動くほうが、転職後の定着率も高くなります。

参考文献

  • Job総研「2025年 人事評価の実態調査」(パーソルキャリア、2025年9月)——人事評価への不満7割、転職検討7割
  • 識学「人事評価の"モヤモヤ"に関する調査」——不満理由1位「基準の不明確さ」48.3%
  • マイナビ「転職動向調査2026年版(2025年実績)」——転職者の52.6%がキャリア停滞感
  • doda「転職理由ランキング2025年版」(パーソルキャリア)——転職理由1位「給与が低い・昇給が見込めない」36.9%