「いつか動こう」と思い続けて10年——退職面談で最も多い後悔

退職面談で本当に言われるのは、「辞めたい」ではなく「もっと早く動けばよかった」です。

私は上場企業の人事部で20年、採用責任者として1500名以上を選考し、退職面談は1000件を超えました。その中で繰り返し耳にしたのが、「いつか転職しようと思っていたのに、気づいたら10年経っていた」という言葉です。

マイナビの「転職動向調査2026年版」によると、2025年に転職した正社員の52.6%が前職でキャリアの停滞感を感じていたと回答しています。さらにワークポートの「2026年春・意識調査」では、離職理由の1位が「キャリア成長不足・スキルの停滞」(36.8%)でした。給与不満でも人間関係でもなく、「このまま自分の市場価値が止まること」が最大の恐怖になっています。

問題は、停滞に気づいているのに動かない人が非常に多いことです。そして、いざ面接に来たとき、採用側は10分以内にそれを見抜きます。

この記事では、採用側の論理で言うと「いつか動こう」が10年続いた人に何が起きているのかを、3つの構造に分けて解説します。

構造①:成果が「社内の文脈」でしか語れなくなっている

10年同じ会社にいると、実績の語り方が社内用語に最適化されます。これは本人の能力とは無関係に起きる構造的な問題です。

たとえば面接で「社内改善プロジェクトをリードしました」と言う方がいます。社内では評価されたかもしれません。しかし採用側が聞きたいのは、「それは事業にどう貢献したのか」「数字でいうとどれくらいのインパクトか」です。

人事部の評価会議では、候補者を「社内言語で語る人」と「市場言語で語る人」に無意識に分類しています。前者は「うちの会社のやり方に染まりすぎている」と判断され、後者は「すぐに戦力になりそうだ」と評価されます。

採用面接1500名の選考で見た「合格者と不合格者の決定的な違い」は、能力の差ではなく、自分の実績を事業文脈で語れるかどうかでした。合格する人は「売上を前年比120%に伸ばした」「コスト削減で年間800万円の効果を出した」と数字で語れます。10年同じ環境にいると、こうした翻訳の必要性に気づく機会が失われるのです。

チェックポイント

  • 自分の実績を、社名を伏せても伝わる言葉で説明できるか?
  • 数字(売上・コスト・期間・人数)で成果を語れるか?
  • 「事業にどう貢献したか」を1分で説明できるか?

構造②:「市場価値を確認していない期間」が長すぎる

退職面談で40代の方に「最後に職務経歴書を更新したのはいつですか?」と聞くと、「転職したときのまま」「10年以上前」という回答が珍しくありません。

マイナビの「キャリア危機に対する意識調査」では、40代正社員の76.5%がキャリア危機を感じていると回答しています。にもかかわらず、職務経歴書すら更新していない人が大半です。

これは「怖いから見ない」という心理構造です。市場価値を確認すると、現実と自己認識のギャップに直面する可能性がある。だから転職サイトの閲覧だけ繰り返して、実際にはエージェントにも登録しない。

採用側の論理で言うと、この状態は「自分の商品価値を10年間棚卸ししていない」のと同じです。朝6時に起きてヨガをしながら考え事をする時間が私にはありますが、その中で「市場に出たときの自分」を定点観測している人と、社内評価だけを気にしている人の差は、面接の受け答えの解像度にはっきり出ます。

チェックポイント

  • 職務経歴書を直近1年以内に更新しているか?
  • 転職エージェントに1社でも登録しているか?
  • 「今の自分の年収は市場相場と比べて高いか低いか」を答えられるか?

構造③:「転職しない理由」が意思決定ではなく惰性になっている

「動かなかった」と「動かないと決めた」は、外から見れば同じですが、3年後のキャリアにおいて決定的な差を生みます。

退職面談1000件のデータから見えるのは、10年以上在籍して退職した人の多くが「辞めない理由」を持っていたのではなく、「辞める理由を言語化しないまま時間が経った」というパターンです。

2025年の正社員の転職率は7.6%で過去最高を記録しています(マイナビ転職動向調査2026年版)。転職が当たり前になった時代に「動かない」こと自体は問題ではありません。問題なのは、「動かない」という選択を意思決定としてではなく、惰性で続けていることです。

面接官は「なぜ今のタイミングで転職を?」と必ず聞きます。この質問に対して、10年動かなかった人の回答には共通パターンがあります。「ずっと考えていたのですが……」「きっかけがなくて……」。これは採用側には「自分のキャリアを主体的に設計していない人」と映ります。

一方、「現職でこれを達成した。次はこの領域に挑戦したい」と語れる人は、在籍年数に関係なく評価されます。長くいること自体がマイナスなのではなく、長くいた理由と次に取りに行くものが一本の線でつながっていないことがマイナスなのです。

チェックポイント

  • 「今の会社にいる理由」を3つ言語化できるか?
  • その理由は「積極的に選んでいる」のか「消去法で残っている」のか?
  • 「次に取りに行くもの」を1つでも言えるか?

「動かなかった10年」を取り戻す自己点検3ステップ

ステップ1:職務経歴書を「市場言語」で書き直す

まず、今の職務経歴書を引っ張り出してください。10年前のものでも構いません。そこに書かれた実績を、社名や部署名を一切使わずに書き直します。「〇〇部のリーダー」ではなく「5名チームのプロジェクトマネジメント、年間売上1.2億円の事業を担当」という具合です。

これだけで、自分の実績がどれだけ社内文脈に依存していたかが可視化されます。

ステップ2:市場価値を「1回だけ」確認する

転職する必要はありません。転職エージェントに1社だけ登録して、カジュアル面談を受けてください。目的は「自分が市場でどう評価されるか」を知ることです。

ワークポートの2026年春調査では、次の転職先選びで「スキルアップ・市場価値の向上」を最優先する人が56.8%に達しています。市場価値を確認すること自体が、停滞を抜け出す第一歩になります。

ステップ3:「動かない理由」を棚卸しする

紙に「今の会社にいる理由」を10個書き出してください。書けない場合、それは「理由がない」のではなく「言語化したことがない」だけです。

書き出したら、それぞれに「積極的選択」か「消去法」かを○×で判定します。消去法が7つ以上なら、それは意思決定ではなく惰性です。惰性で残ること自体を否定はしませんが、惰性であると認識した上で残るのと、気づかずに10年経つのとでは、40代以降のキャリアの選択肢がまったく違ってきます。

採用側が「長期在籍者」に本当に聞きたいこと

最後に、採用側の本音を書きます。

面接官は「10年同じ会社にいた人」を見たとき、まず「なぜ10年いたのか」「なぜ今なのか」を確認します。この2つに一貫性があれば、長期在籍はむしろプラスに評価されます。1つの環境で深い専門性を築いた人、組織の変化を内側から経験した人は、短期離職を繰り返す人よりも信頼される場面が多いのです。

ただし、「動かなかった理由」と「今動く理由」がつながっていない場合、面接官の頭にはこう浮かびます。「この人は、うちに来ても同じように惰性で10年過ごすのではないか」と。

横浜の港を散歩しながら考え事をする時間が私にはありますが、キャリアも同じで、立ち止まって全体を見渡す時間がないと、目の前の業務だけで10年が過ぎます。大事なのは転職することではなく、「自分は今どこにいるのか」を定期的に確認する習慣です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 10年以上同じ会社にいると、それだけで転職に不利になりますか?

いいえ、在籍年数そのものは不利になりません。問題は、長期在籍の間に市場価値の確認や実績の言語化をしてこなかったことです。10年の経験を事業貢献として語れれば、むしろ深い専門性としてプラスに評価されます。

Q2. 転職する気がなくても職務経歴書は更新すべきですか?

はい。職務経歴書の更新は「転職準備」ではなく「自己認識の定点観測」です。年に1回、自分の実績を市場言語で書き直すだけで、スキルの棚卸しと成長の可視化ができます。転職する・しないに関係なく、キャリアの健康診断として有効です。

Q3. 40代から転職活動を始めても間に合いますか?

間に合います。マイナビ転職動向調査2026年版では、40代・50代の転職率が上昇傾向にあります。ただし、20代のようなポテンシャル採用ではなく、即戦力としての実績と専門性が問われます。「何ができるか」を市場言語で語れる準備をしてから動くことが重要です。

Q4. 「いつか転職しよう」という気持ちが消えたり戻ったりします。これは正常ですか?

正常です。キャリアへの不安は環境や年齢で波があります。ただし、その気持ちが3年以上続いている場合は、一時的な感情ではなく構造的なミスマッチの可能性があります。まずは不満を10個書き出し、現職で解決できるものとできないものを分けてみてください。

Q5. 転職エージェントに登録すると、今の会社にバレませんか?

基本的にバレません。転職エージェントには守秘義務があり、本人の許可なく企業に情報を開示することはありません。現職の企業を「紹介不可企業」として登録しておけば、求人が送られることもありません。

まとめ

「いつか動こう」が10年続くこと自体は、珍しいことではありません。しかし、その10年間に市場価値の確認を一度もしていないとしたら、それは「動かない選択」ではなく「選択を先送りした結果」です。

採用面接で見透かされるのは、スキル不足ではなく「自分のキャリアを主体的に設計してきたかどうか」です。今日できることは1つだけ。職務経歴書を開いて、社名を消して、自分の実績を書き直してみてください。

参考文献

  • マイナビ「転職動向調査2026年版(2025年実績)」(2026年3月発表)—— 転職率7.6%(過去最高)、転職者の52.6%がキャリア停滞感を回答
  • ワークポート「2026年春・賃上げと転職意向に関する意識調査」(2026年2月実施、n=442)—— 離職理由1位「キャリア成長不足・スキルの停滞」36.8%、スキルアップ重視56.8%
  • マイナビ転職「キャリア危機に対する意識調査」(2025年10月発表)—— 正社員の58.5%がキャリア危機を感じる、40代は76.5%