「失業保険ってもらいながら転職活動していいの?」――退職後の相談で最も多い質問のひとつだ。
答えから言う。転職活動をしながら失業保険を受給することは、問題ないどころか、それが制度の前提だ。
ただし、知らないと給付が止まる落とし穴が3つある。そしてその逆に、早めに内定を取れば「再就職手当」として給付残額の最大70%が一括で振り込まれる仕組みもある。
この記事では、認定日に実績ゼロで起きること・受給中の3つのNGパターン・再就職手当を最大化する条件を、雇用保険法の条文ベースで整理する。
失業保険の「受給」が成立する条件(雇用保険法第15条)
まず仕組みを押さえる。
失業保険(基本手当)は「失業の認定」を受けた期間分が支給される。雇用保険法第15条によると、「失業の認定」とは「労働の意思と能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態」を確認する手続きだ。
つまり、就職する意思があって実際に活動している人が対象であり、「活動しないで受け取る」ことはそもそも制度の外にある。
認定日は4週間に1回。認定対象期間(前回の認定日の翌日から今回の認定日まで)に2回以上の求職活動実績がなければ、その期間の給付はゼロになる。
「認定日の実績ゼロ」で1回分の給付が消える
2025年4月の雇用保険法改正後、SNSで「自己都合でも1ヶ月で給付される」という情報が広まった。実際、給付制限が原則1ヶ月に短縮されたのは事実だ。しかし改正後も、認定日の実績要件は変わっていない。
社労士事務所に「次の認定日から突然給付が止まった」という相談が来たことがある。話を聞くと、「のんびりしていたら認定対象期間中に1件も応募しなかった」というものだった。求職活動実績がゼロの認定対象期間は、その期間分の給付がまるごとゼロになる。改正の恩恵で給付制限が1ヶ月になっても、この部分は変わらない。
求職活動実績として認められる主な活動
- 求人への応募(書類選考・面接いずれも1回分、結果は問わない)
- ハローワークでの職業相談・職業紹介
- 転職エージェントとの個別面談(登録だけではNG)
- ハローワーク等が主催するセミナー・講習の受講
- 求人情報・履歴書の提出(応募として記録が残るもの)
企業に1社応募して書類選考で落ちても、その応募が1回分の実績として認定される。実績作りは「必ず選考を通過する必要がある」ものではない。
受給中の3つのNGパターン
NG1:アルバイト・就労の未申告
受給中にアルバイトや単発仕事をすること自体は禁止されていない。ただし必ず申告する義務がある(雇用保険法第15条3項)。
申告すれば就労日数・収入に応じて給付額が調整されるか、または給付が後ろにずれる形で処理される。問題は「申告しないで受け取る」ことだ。
雇用保険法第10条の4に基づく不正受給と判定されると、受け取った給付額の3倍の返還が求められる。アルバイト先は給与支払い時にマイナンバー経由で税務情報を提出する義務があり、ハローワークが照会すれば未申告は確実に発覚する。「手渡しでバレない」という話は都市伝説だ。
行政指導の対象になります、という通知が届いてから相談に来るケースを、監督官時代に何件も目にした。その段階では3倍返しの徴収はほぼ確定している。
NG2:内定承諾後も失業認定を受け続ける
内定を承諾した時点で、雇用保険法上の「就職」が成立する可能性がある。一般的に雇用保険の加入見込みがある就職先の内定を承諾した日が、就職日の起点とされる。
この時点以降に認定日を迎えて「失業の認定」を受け続けると、不正受給になる可能性が高い。内定承諾のタイミングは、次の認定日を確認してから動くのが安全だ。次の認定日の直後に内定承諾すれば、最後の認定期間分も確実に給付を受けられる。
NG3:7日間の待期期間中に就労する
離職後の最初の7日間は「待期期間」であり、この期間に就労すると待期完了とみなされない。受給資格の確定が後ろにずれるだけでなく、再就職手当の対象外になるリスクもある。退職直後の1週間は就労しないことが原則だ。副業や単発仕事もこの期間は避ける。
再就職手当を最大化する3つの条件(雇用保険法第56条の3)
早めに転職先を決めると、「再就職手当」として給付残額の一部を一括で受け取れる。これを知らずに「最後まで給付を受けてから就職しよう」と考えると、純粋に損になるケースがある。
| 就職時の残日数 | 給付率 | 受け取れる額(例:日額5,000円×90日) |
|---|---|---|
| 所定給付日数の3分の2以上残っている | 70% | 残60日なら 5,000円×60日×70%=210,000円 |
| 所定給付日数の3分の1以上3分の2未満残っている | 60% | 残35日なら 5,000円×35日×60%=105,000円 |
| 3分の1未満 | 0円 | 再就職手当なし |
例として、自己都合退職で勤続5年・30歳の場合、所定給付日数は90日。給付制限1ヶ月が終わった時点から受給開始として、最初の30日以内に内定承諾できれば残日数60日以上(3分の2以上)で給付率70%が適用される。
再就職手当の受給要件(5項目チェックリスト)
- 就職日前日までに失業認定を受けていること
- 就職先に1年以上の雇用見込みがあること
- 退職前の事業主(前の会社)への再就職でないこと
- 7日間の待期期間を完了した後に就職していること
- ハローワーク以外の経路で決まった場合、離職前に内定が確定していないこと
申請はハローワークへ就職日の翌日から1ヶ月以内に行う。期限を逃すと受給できなくなるため、内定承諾後すぐに管轄のハローワークへ連絡する習慣をつけてほしい。
転職活動スケジュールの実務的な設計
退職→給付制限(原則1ヶ月)→受給開始の流れを前提に整理する。
- 受給開始後すぐに転職活動を本格化させる:残日数が多い状態でないと再就職手当の70%コースを狙えない
- 認定日(4週ごと)の前に実績2件を確保する:面接1件+エージェント面談1件などを組み合わせる
- 内定承諾のタイミングは次の認定日直後がベスト:最後の認定期間分の給付も確実に受けられる
雇用保険法第15条によると、失業保険は「就職しようとする積極的な意思があり、かつ、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない状態」の人を対象としている。転職活動をしながら受給することは、制度の趣旨に完全に合致する。制度を正しく理解して使い倒すことに遠慮は不要だ。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 転職エージェントへの登録だけで求職活動実績になりますか?
- 登録だけでは実績として認められません。エージェントとの個別面談(対面・電話・オンライン)を受けた場合は、ハローワークの判定によっては実績として認められます。エージェント面談後にもらえる「活動証明書」をハローワークに提出するのが確実です。事前に管轄のハローワークに確認することを勧めます。
- Q2. 給付制限中も求職活動実績を積む必要がありますか?
- 給付制限中は失業認定が発生しないため、その期間の実績カウントは不要です。ただし待期期間(7日間)終了後の初回認定日に向けて活動実績が必要になるため、給付制限中から動いておくと後が楽になります。
- Q3. 派遣会社への登録・就労は就職扱いになりますか?
- 派遣元への登録だけでは就職扱いにはなりません。ただし実際に就労した日は申告が必要です。正しく申告すれば給付が調整されるだけで問題ありません。就労日数によっては給付日が後ろにずれる場合があります。
- Q4. 5年以内に3回以上の自己都合退職をした場合、給付制限は1ヶ月になりますか?
- なりません。2025年4月改正後も、5年以内に3回以上の自己都合退職がある場合は給付制限が3ヶ月のまま据え置かれます。「改正で1ヶ月になった」という情報だけ見て計画を立てると、資金繰りに支障が出ます。離職前に自分の離職履歴を確認してください。
- Q5. 再就職手当の申請はいつまでに行えばよいですか?
- 就職日の翌日から1ヶ月以内にハローワークへ申請します。申請書類(再就職手当支給申請書・採用証明書)は就職先にも記入してもらう必要があるため、内定承諾後すぐにハローワークに連絡して必要書類を受け取ってください。期限を逃すと受給できなくなります。
参考文献
- 厚生労働省「雇用保険法」(昭和49年法律第116号)第10条の4・第15条・第56条の3
- 厚生労働省ハローワークインターネットサービス「基本手当の受給要件・支給額」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」(令和7年度版、各都道府県労働局)
- 厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和7年4月施行)の概要」






