「転職すれば、きっと変わる」——そう思って会社を辞めた人のうち、約4人に1人が「転職を後悔した」と答えている(マイナビ調査)。識学の調査では、59.7%が転職後に「後悔・失敗した」と回答した。

退職面談で本当に言われるのは、「前の会社でも同じことで悩んでいた気がする」という言葉だ。私は上場企業の人事部で20年、退職面談を1000件以上担当してきた。転職入社後1年以内に再び退職面談に現れる人には、驚くほど共通したパターンがある。

この記事では、退職面談と採用面接の両面から見えた「転職しても同じことで悩む人」の3つの特徴と、転職前に自分でできる不満の見分け方を構造的に解説する。

「転職で解決する不満」と「しない不満」は構造が違う

まず前提として整理しておきたい。不満には2種類ある。

環境依存型の不満——給与水準、評価制度、勤務地、業界の将来性。これらは転職によって解決できる。doda「転職理由ランキング2025年版」でも、「給与が低い・昇給が見込めない」が5年連続で1位(36.9%)を占めている。給与が低いという事実は、給与テーブルの高い会社に移れば物理的に解消される。

自己再現型の不満——「どこに行っても人間関係がうまくいかない」「評価されている気がしない」「やりがいが見つからない」。これらは環境を変えても本人の行動パターンとして再現される。退職面談で最も対応に困るのは、このタイプの不満を整理しないまま転職を繰り返す人だ。

退職面談1000件で見えた「転職しても同じことで悩む人」の3つの特徴

特徴①:不満の主語が常に「相手」で、構造に変換できていない

「上司が合わない」「同僚と温度差がある」「会社の方針が理解できない」——不満としてはリアルだ。しかし、採用側の論理で言うと、この表現のまま面接に来る候補者は「次の職場でも同じことが起きる可能性」を示唆している。

退職面談で「上司が合わない」と語る人に「具体的に、どの場面で、何が合わなかったか」を聞くと、大きく2つに分かれる。

  • 環境の問題:「週次1on1がなく、フィードバックを受ける機会がゼロだった」→ マネジメント体制の不在。転職で解決できる
  • 関係性の再現パターン:「どの上司とも、距離が近くなると合わなくなる」→ 対人関係の癖。転職しても再現される

人事部の評価会議では、退職者の「人間関係が理由」という申告を額面どおりには受け取らない。なぜなら、同じ部署の他メンバーから同様の不満が出ていなければ、それは環境ではなく個人の対人パターンである可能性が高いからだ。

特徴②:「逃げたいもの」は即答できるが「取りに行くもの」が言えない

採用面接を1500名以上担当してきた中で、転職を短期間で繰り返す人に共通するのがこの構造だ。

「なぜ転職しようと思ったのですか?」に対して、不満は滑らかに出てくる。しかし「次の職場で何を実現したいですか?」と聞くと、言葉が止まる。

以前、退職理由の伝え方を間違える人のパターンを分析した際にも同じ構造が見えた。不満を感情のまま語る人は、その裏側にある「本当に欲しいもの」を言語化できていない。結果として「嫌なことがない場所」を探し続けるが、どの職場にも嫌なことはある。転職のたびに「ここも違った」となる構造が出来上がる。

マイナビ「転職動向調査2026年版」では転職者の52.6%がキャリア停滞感を報告しているが、この停滞感の正体が「環境の限界」なのか「言語化の不足」なのかを区別できている人は少ない。

特徴③:現職で一度も「変えてほしい」と交渉していない

退職面談で最も多い後悔は「もっと早く相談すればよかった」だ。以前、「人事に相談しても動かない」の構造的理由を分析したが、そもそも相談すらしていない人のほうが圧倒的に多い。

厚労省の令和5年度ハラスメント実態調査では、パワハラ被害者の36.9%が「何もしなかった」と回答し、その理由の65.6%が「何をしても解決にならないと思った」だった。この心理はハラスメントに限らず、日常的な不満にも当てはまる。

「言っても変わらないだろう」は、検証されていない仮説だ。異動希望、業務変更の相談、1on1の依頼——これらを一度も試さずに「この会社では無理だ」と結論を出す人は、次の職場でも同じ行動パターンを再現する。環境を変える前に「環境に働きかける」という選択肢を試していないのだ。

転職前にできる「不満の見分け方」3ステップ

ステップ①:不満を10個書き出して3つに分類する

まず「辞めたい理由」を10個、箇条書きで書く。次に、それぞれを3つに分類する。

  • 「仕組み」の問題:給与テーブル、評価制度、勤務地、リモート可否 → 転職で解決しやすい
  • 「人」の問題:特定の上司、チームの雰囲気 → 異動で解決する可能性あり
  • 「自分」の問題:やりがい、成長実感、承認欲求 → 転職では解決しにくい

「自分」の問題が半数以上を占めていた場合、転職よりも先に自己理解の整理が必要だ。

ステップ②:「現職で試したか」をYes/Noで判定する

10個の不満について「改善を求めたか?」にYes/Noで答える。Noが7個以上なら、それは「この会社では無理」ではなく「まだ試していない」だ。上司にフィードバックを求めたか、人事に異動の相談をしたか、制度の変更を提案したか。試す前に辞める判断をする人は、次でも同じ行動を取る可能性が高い。

ステップ③:1人に話して「環境」か「パターン」か確認する

信頼できる人——同期、社外の友人、キャリアコンサルタント——に不満リストをそのまま見せる。「それは会社がおかしい」と言われるなら環境の問題だ。「前の会社でも同じこと言ってなかった?」と返されるなら、自分のパターンの可能性がある。

朝ヨガで頭を整理する時間を持つようにしているが、不満の分類だけは自分一人ではバイアスがかかる。第三者の視点を借りることで、初めて「これは環境の問題か、自分のパターンか」が見える。

まとめ:転職は「手段」であって「解決策」ではない

転職は強力なキャリア戦略だ。ただし、転職で解決する不満と、自分自身のパターンに起因する不満は構造が違う。

退職面談1000件の経験から断言できるのは、転職を繰り返す人の大半は能力やキャリアに問題があるのではなく、「何を解決したいか」の言語化が足りていないということだ。

不満を10個書き出し、「仕組み」「人」「自分」に分類する。それだけで、転職すべきか、まず現職でできることがあるかが見えてくる。環境を変える前に、不満の正体を言語化すること。それが後悔しないキャリア判断の出発点だ。

よくある質問(FAQ)

Q1. 転職回数が多いと採用で不利になりますか?

回数そのものより「転職のたびに何を取りに行ったか」の一貫性を見ています。採用面接で転職理由が毎回「人間関係」の候補者は注意フラグが立ちます。一方、「給与→裁量→事業規模」と取りに行くものが変遷していれば、キャリア設計として評価される傾向があります。

Q2. 「自己再現型の不満」だと気づいた場合、何から始めればいいですか?

まずキャリアコンサルタントや信頼できる社外の人に、不満リストをそのまま見せてください。自分では「環境の問題」だと確信していたものが「対人パターン」であるケースは少なくありません。パターンを自覚すること自体が、再現を止める第一歩になります。

Q3. 人間関係の不満はすべて「自分のパターン」ですか?

いいえ。ハラスメントや違法な長時間労働など、明らかに組織側に原因がある場合は環境の問題です。見分ける基準は「同じ部署の他メンバーも同じ不満を持っているか」です。自分だけが感じているなら対人パターンの可能性、部署全体が疲弊しているなら環境の問題として切り分けてください。

Q4. 不満を上司に伝えたら評価が下がりませんか?

伝え方によります。感情のまま「辛いです」と言えば不満として処理されますが、「〇〇の仕組みを△△に変えることは可能ですか」と提案型で伝えれば、むしろ主体性の評価につながります。退職面談で「言えなかった」と後悔する人の多くは、伝え方の設計を省略しています。

Q5. 「環境依存型の不満」が大半なら、すぐ転職すべきですか?

不満が環境に起因すると判断できたなら、転職活動を始めること自体は合理的です。ただし焦りは判断を曇らせます。「逃げたいもの」だけでなく「取りに行くもの」を1つ言語化してから動くことで、転職先の選定基準が明確になり、入社後のミスマッチを防げます。

参考文献