3社目を辞めたくなった。「また自分は逃げているのか」と自己嫌悪で検索している人に、まず伝えたいことがある。
転職を繰り返すことを「辞め癖」という性格の問題に帰結させた瞬間、本当の問題が見えなくなる。退職面談1000件を通じて分かったことは、転職を繰り返す人の大半は意志が弱いのでも忍耐力がないのでもなく、同じパターンを繰り返す構造的な理由を持っているということだ。
識学の調査によると、転職後に「後悔・失敗したと思ったことがある」と答えた人は59.7%にのぼる。転職率が7.6%と過去最高(マイナビ転職動向調査2026年版)を記録した今、転職という行動自体は珍しくない。問題は「なぜ繰り返すのか」の構造を理解しないまま動いていることだ。
採用側の論理で言うと:転職回数と人事評価の現実
採用側の論理で言うと、転職回数そのものは以前ほど重視されなくなっている。採用担当者の約40%は回数自体を選考基準にしていない(リクナビNEXT採用担当者調査)。
しかし、重視するかどうかと、評価に影響するかどうかは別の話だ。
人事部の評価会議では、転職を繰り返している候補者に必ず問われることがある。「なぜここでなければならないのか」という問いへの答えの精度だ。転職回数ではなく、転職理由の一貫性と志望動機の具体性で、「またすぐに出て行く人」かどうかが判断される。
採用面接1500名を通じて見えたことがある。面接で落ちている転職回数の多い候補者の共通点は、転職回数ではなく「なぜ今回この会社を選んだか」への答えが薄いことだ。逆に、5回転職していても通過する人は、全ての転職に一貫した文脈がある。
退職面談1000件で見た転職を繰り返す人の3つの構造パターン
パターン①「逃げたい理由」はあるが「取りに行くもの」が毎回言語化できていない
退職面談で「なぜ辞めるのか」を聞くと、即答できる人は多い。しかし「次の会社で何を取りに行くのか」「今回の転職を通じて何を手に入れたいのか」を聞くと、言葉が止まる。
転職を繰り返す人の多くは、「今の場所から逃げること」にエネルギーを全投入し、「次の場所で取りに行くもの」の言語化を後回しにしている。その結果、次の会社でも「取りに行くものが見つからない」という感覚が繰り返される。
採用面接での志望動機が浅い候補者は、入社後に「ここでもなかったかもしれない」という感覚に陥りやすい。志望動機とは「なぜここでなければならないか」への回答だからだ。それが言語化できていない転職は、選ぶ基準が「今よりマシ」になってしまう。
パターン②不満の主語が「相手」のまま、自分のパターンを確認していない
退職面談で不満を聞くと、ほぼ例外なく主語は「上司が」「会社が」「チームが」となる。これは自然な反応だ。しかし転職を繰り返す人の場合、同じ種類の不満が2社・3社にわたって登場する。
不満には2種類ある。環境依存型(その会社・上司固有の問題)と自己再現型(場所を変えても自分のパターンが再現される問題)だ。
見分ける問いは一つ。「同じ部署の他のメンバーも、同じ不満を持っていたか?」だ。持っていた場合は環境の問題、持っていなかった場合は自己再現の可能性が高い。転職しても解決しない不満は後者に属することが多い。
退職面談では、「前の会社でも同じことがあって辞めた」という話を聞くことがある。その人の多くは、転職の前に「なぜ自分はこの不満に陥りやすいのか」を一度も検証していなかった。環境を変えれば解決すると思っていたが、実際には自分の思考パターンや行動様式が不満の構造を作っていたケースだ。
パターン③辞める判断が毎回「消耗した状態」で下されている
退職面談で本当に言われるのは「もっと早く動けばよかった」という後悔だ。しかしこれは裏返すと、多くの人が追い詰められた状態で判断を下しているということでもある。
消耗した状態での転職判断は「今より少しでもマシ」という基準になる。給与・立地・知名度など表面的な条件で選びがちになり、「入社後に何を取りに行くか」の精度が必然的に落ちる。入社後3〜6ヶ月で「ここでもなかった」という感覚が生まれ、また転職したくなる。
この構造を繰り返している人は、自分のことを「辞め癖がある」と表現する。しかし正確には「消耗してから判断するパターン」が固定化しているのであり、性格の問題ではなく判断のタイミングの設計問題だ。
退職面談1000件で分かったこと
退職面談で退職理由を引き出すとき、私が長年使っている問いがある。「直近3ヶ月で最も嫌だった具体的な出来事は何か」「同期にこの会社を薦めるか」「5年前の自分なら今ここにいるか」の3つだ。この問いを使い始めて、本音が出てくる割合が3割から8割に上がった。
この問いに対して転職を繰り返している人が示す反応の共通点がある。3つ目の問い——「5年前の自分なら今ここにいるか」——に対して、長い沈黙の後に「たぶん、同じような場所にいると思います」と答えることだ。
これは「どこに行っても同じ」という諦めではない。自分のパターンに気づいた瞬間の言葉だ。退職面談の場で初めて「自分はどういう状況で辞めやすいか」を言語化できた、という人が一定数いる。
横浜港を散歩しながら考えることがある。転職市場でいちばん見落とされているのは、「なぜ繰り返すか」ではなく「繰り返しに気づく機会がなかった」という事実かもしれない、と。
転職を繰り返すパターンを止める自己点検3ステップ
ステップ1:今の不満10個を書き出し、3分類に振り分ける
不満を「仕組み」「人」「自分」の3つに分類する。仕組みの問題は転職で解決できることが多い。人の問題は環境を変えれば改善する場合もある。しかし「自分」に帰属する不満(自分の思考パターンや行動様式に起因する問題)は転職しても解決しない。
転職を繰り返している人の不満リストを見ると、同じ分類に同じ種類の不満が毎回登場することが多い。これが自己再現パターンの可視化になる。
ステップ2:「取りに行くもの」を1文で書く
「次の会社で3年後に何を手に入れたいか」を1文で書く。書けない場合は、転職のタイミングではない可能性が高い。逃げたい理由と取りに行くものが一本の線でつながったとき、初めて転職の判断基準が整う。
ステップ3:信頼できる1人に「また辞めたくなった」を声に出す
一人で考えていると、自分のパターンの外から自分を見ることができない。社外の信頼できる人、キャリアカウンセラー、元同僚でもよい。「また辞めたくなった」という事実を声に出して言語化するだけで、自分のパターンへの気づきが起きやすくなる。
退職面談での経験から言えることがある。早期に自分の状況を言語化できた人と、限界まで一人で抱え込んだ人では、次のキャリアの質に大きな差が出る。転職を繰り返すパターンを変えるための最初の一歩は、構造を言語化することから始まる。
よくある質問
Q. 転職回数が多いと採用で不利になりますか?
A. 採用担当者の約40%は転職回数そのものを重視しません(リクナビNEXT採用担当者調査)。ただし、転職理由の一貫性と志望動機の具体性は厳しく見られます。「なぜ今回この会社でなければならないか」を事業文脈で語れる人は、転職回数が多くても選考を通過します。採用側の論理で言うと、評価されるのは回数ではなく「一本の線でつながるキャリアの文脈」です。
Q. 辞め癖は直せますか?
A. 「辞め癖」という表現自体が性格問題への誤帰属です。構造的に見ると、「逃げたい理由はあるが取りに行くものがない」「不満の自己再現パターンを確認していない」「消耗した状態で判断を下している」の3つのいずれかです。これらは性格ではなく、設計の問題なので変えることができます。
Q. 転職を繰り返す自分は採用されにくくなりますか?
A. 転職の一貫性が説明できるかどうかで変わります。人事部の評価会議では、転職回数よりも「なぜここで働きたいのか」への答えの深さが議論されます。過去の転職理由を事業文脈に変換し、今回の志望動機と一本の線でつなげられれば、回数は問題になりません。
Q. 自己再現型の不満かどうかはどう見分ければいいですか?
A. 「同じ部署の他のメンバーも、同じ不満を持っていたか?」を自問してください。持っていた場合は環境の問題です。持っていなかった場合は、自分の思考パターンや行動様式が不満を生んでいる可能性があります。また、前の職場でも「同じ種類の不満」があったかどうかを確認することも有効です。
Q. 転職の決断を「消耗した状態」でしないためには?
A. 消耗する前に不満を言語化する習慣を持つことです。退職面談1000件の経験から言えば、早期に不満を言語化できた人ほど、次の転職先の選択精度が高い。具体的には、不満を感じ始めた時点で「取りに行くものの言語化」と「信頼できる1人への言語化」を行うことで、消耗する前の判断が可能になります。
参考文献
- マイナビ「転職動向調査2026年版(2025年実績)」
- 識学「転職による幸福度の実態調査」(2022年6月)
- doda「転職理由ランキング2025年版」
- リクナビNEXT「採用担当者アンケート 転職回数に関する意識調査」





