「伝えたのに動かない」のは構造の問題だ

Job総研が2025年に実施した「人事評価の実態調査」(391名対象)では、約6割が人事評価を意識したアピールを実施しており、そのうち8割が「アピールは評価に有効だ」と感じていると回答した。一方で、7割が評価に不満を持ち、転職を検討するという結果も出ている。

アピールが有効だと信じながらも、評価には7割が不満——この矛盾の正体は、アピールの中身にある。秋の評価シーズン(9〜11月)を前に、キャリア面談で希望を伝えているのに昇格・異動が動かないと感じている人は多い。

私は上場企業の人事部で20年、退職面談を1000件以上担当してきた。退職面談で「評価面談で頑張りを話したのに何も変わらなかった」と言う人を何百人も見てきた。その経験から言える。これは話し方の問題でも、熱意の問題でもない。評価会議という合議体の構造を知らないまま面談に臨んでいることが、変わらない最大の理由だ。

評価会議の構造を知らないと面談は報告で終わる

まず、評価会議とは何かを整理する。多くの企業では、キャリア面談や評価面談の後に「評価会議」が開催される。この会議は上司1人が決めるものではなく、複数の管理職・人事・役員が参加する合議体だ。昇格や異動の最終決定は、この評価会議が下す。

人事部の評価会議では、こういう会話が起きる。「川田さんはどうですか?」「面談では頑張っていると言っていましたが、具体的な根拠が…」——このやりとりが、昇格・異動が動かない構造の核心だ。

上司はあなたのキャリア面談での発言を、評価会議で「推薦の根拠」として使わなければならない。しかし、多くの場合、上司が評価会議に持ち込める素材がない。あるのは「本人が頑張っていると言っていた」という印象だけで、評価会議では印象は推薦の根拠にならない。

昇格・異動が動かない3つの構造パターン

パターン①:「頑張ったこと」を話しているが「上位等級への証拠」になっていない

採用側の論理で言うと、評価会議で昇格が議題に上がる人は例外なく「次の等級の仕事をすでにしている実績」を上司が証拠として持ち込んでいる。

「今年は○○のプロジェクトを頑張った」という報告は、現在の等級で仕事をしていることの確認にしかならない。評価会議が昇格の根拠として求めるのは「課題→行動→数字の3点セット」で語れる、上位等級の定義と一致する実績だ。

たとえば、主任→係長への昇格なら「チームをリードして課題を解決した経験」が根拠になる。「自分の業務を頑張った」ではなく「チームの課題をどう特定し、どんな行動で何を変えたか」を語れるかどうかが分かれ目になる。

パターン②:正式な面談で初めて伝えるので上司が評価会議の準備ができない

退職面談で本当に言われるのは「評価面談で言ったのに、その後何も動かなかった」という言葉だ。これはほとんどの場合、上司の怠慢ではなく「タイミングの問題」だ。

評価会議は、評価面談の2〜4週間後に開催されることが多い。正式な評価面談の場で初めてキャリアの希望を伝えると、上司が評価会議に素材を持ち込む準備時間が物理的に取れない。面談から評価会議まで間があっても、上司は自分のチーム全員分の資料を準備する必要がある。後から追加で情報をもらっても、優先度が下がる。

HRBrain調査(2025年)では、人事異動を経験した約6割が離職を検討し、面談が「5分未満」の場合に不満が1.6倍に増加すると報告されている。面談の質と量が、その後のキャリアへの納得感を決定的に左右する。

パターン③:「上司に理解してもらえた」で終わり、評価会議に使える言語になっていない

キャリア面談が終わった後、「上司がわかってくれた」という感触を持つ人は多い。しかしその上司が評価会議で「川田さんを昇格させてください」と言えるかどうかは別の話だ。

評価会議では、上司は「なぜ今このタイミングでこの人を昇格させるべきか」を、他の管理職・人事・役員に対して説明できなければならない。「本人が頑張っていると言っていた」「希望を持っている」という言葉は、評価会議の言語ではない。

評価会議の言語は「等級定義と一致する実績の3点セット(課題→行動→数字)」だ。上司がこの素材を持っているかどうかが、昇格・異動の可否を決定的に分ける。

秋の面談を結果につなげる3つの設計

設計①:面談の2週間前に「事前の場」を作り、上司に素材を渡す

正式な評価面談の2週間前に、「少し相談させてください、10分ほどで大丈夫です」と事前の場を作る。この場の目的は1つだ——上司が評価会議で使える素材を渡すこと。

渡す素材は、課題→行動→数字の3点セットで書いた実績と、「次に目指したいポジション・役割」の1行だ。口頭で伝えるより、文書で渡す方がいい。上司が評価会議の準備に使えるからだ。正式面談の場で初めて伝えるのでは、上司に準備時間が渡らない。

設計②:「上半期の報告」ではなく「上位等級への証拠」として整理する

自分が目指す等級の定義を、就業規則や評価制度の資料から確認する(人事部に聞けば開示してもらえることが多い)。その等級定義に対して、自分の過去の実績が「すでに一致しているもの」を課題→行動→数字で3つ挙げる。

たとえば「プロジェクトをリードする」という等級定義があるなら、「○月に△△プロジェクトで×人のチームをリードし、□□という課題を、△△の方法で解決した結果、○○という数字を出した」という形式に変換する。

「頑張りました」という言葉ではなく、「この等級の仕事をすでにしている」という証拠の提示が、評価会議で議題になる人の設計だ。

設計③:異動希望なら「行きたい」ではなく「貢献できる根拠」を1枚で示す

異動希望が評価会議で通らない最大の理由は、「不満の表明」として読まれることだ(詳細は別記事「異動希望が通る人と通らない人の3つの構造的違い」を参照)。

評価会議で異動希望が通る人は、「そこで何ができるか」を事業課題の文脈で語れる。異動先の部署が解決しようとしている課題を事前にリサーチし、「自分の○○という経験が、△△という課題の解決に使える」という1枚を用意する。

この1枚が上司の推薦を後押しする。「○○さんはあの部署の△△課題に取り組んだ経験があり、異動先で即戦力として機能できる根拠があります」——この言語で評価会議に持ち込める素材があるかどうかが、希望が通るかどうかを決める。

退職面談で最も多い後悔

退職面談1000件の経験から言えば、昇格・異動が通らずに転職した人の後悔で最も多い言葉はこれだ。「もっと早く動けばよかった。評価面談で言えば動くと思っていた」。

マイナビ転職動向調査2026年版では、転職者の52.6%がキャリア停滞感を転職理由に挙げている。その多くは、評価面談で話したが変わらなかった、という経験を持つ。変わらなかった理由のほとんどは、評価会議の構造を知らないまま「伝えれば動く」と思っていたことにある。

朝ヨガを終えて横浜の港を歩きながら考えることがある。評価会議の設計を知っていれば転職せずに済んだ人が、退職面談の相手の中に何人いただろうか、と。採用側の論理で言うと、昇格・異動は「熱意」で動くのではなく「評価会議で使える素材」で動く。秋の面談シーズンに、この構造を知っているかどうかが結果を決定的に分ける。

よくある質問(FAQ)

Q1. 上司に「事前に相談させてください」と言っても嫌がられませんか?

人事部の評価会議では、事前に情報を整理して持ち込んでくれる部下を嫌がる上司は少ない。「10分ほど、上半期の振り返りと来期の話をさせてください」という切り出し方で、ほとんどの上司は応じる。嫌がる上司がいるとすれば、それ自体が評価会議での推薦意欲の低さを示している。その場合は、人事部に直接キャリア申告制度があるか確認することを勧める。

Q2. 等級定義を人事部に聞いていいのですか?

問題ない。むしろ積極的に開示を求めるべきだ。等級定義を聞いてくる社員は、評価会議では「目標意識が明確」として評価される。「自分の仕事が上の等級の定義と一致しているか確認したい」という理由で人事部に問い合わせると、ほとんどの場合は資料を提供してもらえる。

Q3. 数字のある実績がない職種でも同じ設計は有効ですか?

有効だ。数字は「業務量が○○%増加した状況で」「チームメンバー○名を巻き込んで」という文脈の数字でも機能する。売上や利益だけが数字ではない。課題(何が問題だったか)→行動(何をしたか)→変化(何がどう変わったか)の3点セットが揃えば、評価会議では推薦の根拠として機能する。

Q4. 評価会議はいつ開催されますか?

企業によって異なるが、年2回(春・秋)の評価サイクルが多い。秋の評価会議は10〜11月に開催するケースが一般的だ。つまり、9〜10月の評価面談の前(2週間前)に事前の場を設けることが、秋サイクルのベストタイミングになる。自社の評価サイクルが不明な場合は、人事部に「評価面談の結果はいつごろ反映されますか」と確認するだけでスケジュールがわかる。

Q5. 評価会議で名前が出なかった場合、どうすればわかりますか?

評価会議の結果は上司から伝えられる。「今回は見送りになった」という結果が来たとき、「どういう点が足りなかったと評価会議で議論されましたか」と具体的に聞くことが重要だ。「次回に向けて何を積めばいいか」を上司から引き出すことで、次の評価サイクルに向けた素材設計ができる。曖昧な返答しかなかった場合、上司が評価会議で推薦の根拠を持っていなかった可能性が高い。

参考文献

  • Job総研『2025年 人事評価の実態調査』パーソルキャリア株式会社(2025年9月)
  • 株式会社HRBrain「人事異動をきっかけに約6割が離職を検討。面談5分未満で不満急増」プレスリリース(2025年)
  • マイナビキャリアリサーチLab『転職動向調査2026年版(2025年実績)』株式会社マイナビ(2026年3月)
  • リクルートマネジメントソリューションズ『昇進・昇格および異動・配置に関する実態調査2024』(2024年)